眠り薬と赤い水

BUSHI青龍伝 〜二人の勇者〜スーパーファミコン|ゲームレビュー

パッケージ表

パッケージ裏

ROMカセット

タイトル画面

勾玉伝説

ピータン

1997年はゲームフリークにとって多難の年だった。 ジェリーボーイ2の発売が頓挫したのとほぼ同時期に、発売中止の危機に瀕していたゲームフリーク製のスーパーファミコンソフトがもう1本あったんだ。

肴倉もろみ

そのタイトルは『勾玉伝説』といいます。 パブリッシャーはエニックスでしたが、諸般の事情でエニックスは手を引くことになってしまうんです。

ガマズミ

その話、そう言うとエニックス側に問題がありそうにも取れるけど、実のところ原因はゲームフリーク側にあったのよ。

更科みどりこ

そうなの?(´Д`;)

ガマズミ

いつまで待っても開発は進まず、完成の目途も立たない状態だったらしいわ。 開発プログラマーは新人しかいないし、明らかに体制に無理があったみたい。 最終的には痺れを切らしたエニックスの社員が自ら仕様書を書くほどの事態にまでなっていたそうよ。

肴倉もろみ

壮絶な話です(^^;)
それで、やっと完成が近づいたころにはもうスーパーファミコンの市場が小さくなっていたんですね。

ガマズミ

この時期、メイン市場がプレイステーションやセガサターン、NINTENDO64など次世代機へ急速に移っていたわ。 他社でも開発が遅れていたゲームはあるけど、ちゃんと完成させて売り出すか、次世代機用に作り直すか、最悪は発売中止する判断を迫られたのよ。

更科みどりこ

そういえば、任天堂もNINTENDO64の発売が迫ったからって完成済みの『スターフォックス2』をお蔵入りにしていたっけ。

ピータン

そこで『勾玉伝説』は幸運だったと言える。 パブリッシャーの引き受け手が見つかり、タイトルを変更した上で発売されることになったんだからな。 もちろんエニックスとは合意の上だ。

肴倉もろみ

こうした紆余曲折を経て新たなパブリッシャーは老舗ソフトハウスのT&Eソフトに、タイトルは『BUSHI青龍伝 〜二人の勇者〜』に決定しました。

ストーリー

◆序章◆


 光の天帝が生み出した兄神と妹神は、兄が海を、妹が大地を創り世界を誕生させた。 海の兄神と山の妹神によって作られた世界は、深く静かな海に囲まれた、緑豊かな大地。 そこで生まれた生命たちは神の恩恵を受け、平和に暮らしていた。 しかし、人間が地上に誕生してから海の兄神の心にある変化が起きる。
 「自分の作り出した海には、人間のような生物がいない。原始的な生物ばかりで、暗く静寂に満ちた世界だ……。明るい太陽も、豊かな緑も、様々な生物たちも、すべては大地にいる……。」
 それは「嫉妬」という感情だった。 やがて海の兄神は「全てを支配したい」というゆがんだ欲望にとらわれ、邪神となってしまう。 そして、世界の中心にある天界と地上を繋ぐ唯一のもの「マムスビのハシラ(魔結之柱)」を邪悪なものに変え、そこで邪悪な魔物たちを生み出していった。
 海の兄神の愚行を止めるため、山の妹神と「八神一族」が立ち上がった。「八神一族」とは、大地の神である山の妹神を奉り、仕え、共に生きることを使命とした一族である。 彼らを代表する4人の勇者は「武四」と呼ばれ、代々「青龍」「白虎」「朱雀」「玄武」という名を受け継いでいた。
 しかし、熾烈な戦いの末、山の妹神たちは敗れてしまう。そして妹神は天界へと戻され、「武四」たちは死者の住む国「黄泉の国」へと落とされた。

(取扱説明書より)
肴倉もろみ

古代日本の神話をモチーフにしたRPGです。 ゲームフリークがこういうストーリー重視のものを作るのは珍しいですね。

ガマズミ

いえ、むしろらしいんじゃないかしら?
だってまた兄弟喧嘩じゃない。

更科みどりこ

あっ、そういえばクインティもジェリーボーイも兄弟喧嘩の話だったわね。 しかも段々スケールアップしてて今回はとうとう神様同士だし、これは期待できそうだわ…(`・Д・´)

ピータン

どこに注目してんだよ(´Д`;)
本作の物語は海の兄神と山の妹神の戦いの十数年後から始まる。主人公の少年ジンは姉のナミと一緒に暮らしていたが、ジンが15歳となったその日に事件は起こった。 自宅が巨大な鳥に襲われ、ナミが攫われてしまうんだ。

姉が目の前で攫われてしまう。

肴倉もろみ

ジンは武四の一人である青龍の息子です。 あの鳥が兄神の生み出した魔物であるなら狙われた理由もわかりますが、ナミだけを攫った理由はわかりません。 とにかくジンはナミを助けるために旅立つことになりました。

ナミは無事でいるのだろうか。

リレイティブ・タイム・アクション

ガマズミ

前置きが過ぎたわね。 本作の最大の特徴は『リレイティブ・タイム・アクション』と名付けられた独自の戦闘システムにあるわ。

剣を振るって先制攻撃だ。

肴倉もろみ

フィールド上の敵シンボルと接触すると戦闘画面に移行します。 ジンが剣で斬りかかったときはこちらの先制攻撃、逆に襲い掛かられたときは相手の先制攻撃になります。

目標行動回数とは?

ピータン

画面が切り替わる際、目標行動回数が示される。 これが何を意味するかは追々説明しよう。

RPGをプレイしていたはずでは…。

更科みどりこ

いきなりアクションゲームのような横画面になってびっくりしたでしょ? これが本作の戦闘画面なのよ。

セレクトボタンでグリッド表示。

ガマズミ

実際はこんな風にグリッドで区切られているのよ。 戦闘中の移動はこの単位で行われるわ。

肴倉もろみ

自分と敵キャラが交互に行動するターン制のバトルなんです。 横に1マス動くのも、剣を振るのも、アイテムを使うのも同じ1ターン。 ローグライクゲームの横視点版だと考えてもらえれば解りやすいでしょうか。

光の勾玉

敵を全滅させると戦闘終了。

ガマズミ

目標行動回数より少ないターン数で敵を殲滅すると勾玉が手に入るわ。 この時は目標8ターンに対して3ターンでクリアしたから差し引き5個獲得できたわけ。

ピータン

勾玉の数はストーリー進行のフラグになっており、集めずに進めることはできない。 多く獲得するためには立ち回りを工夫する必要があるというわけだ。

更科みどりこ

闇雲に戦闘回数を重ねればいいってものでもないのよ。 このゲームの敵シンボルの数は決まっているからね。

肴倉もろみ

敵の出現位置・編成等のパターンは固定されていて、一度倒したシンボルは画面を切り替えると何度でも復活します。 ひとつひとつのシンボルごとに、どう動けば早く全滅できるかを考えなければなりません。

同じシンボルでも目標数はこれまでクリアした最短のものに上書きされる。

更科みどりこ

マップのあちこちに詰め将棋の問題が置かれてるようなものだと考えてもらえればいいわ。 だけど再戦時はこれまでに倒した最も短いターン数が目標になるから、無尽蔵に勾玉を入手することはできないの。

ガマズミ

まあ最初のうちからそこまで突き詰めることもないわ。 戦闘を重ねればジンがレベルアップして強化されるし、必殺技を覚えたりアイテムが増えてくればどんどん楽になるから。 考える要素も増えるけどね。

ピータン

いくら強くなっても手順を詰めなければ劇的に稼げるようにはならないということだ。 どんなにレベルを上げてどんなに弱い敵を相手にしていても、それだけで簡単にクリアできるわけではない。 全ての戦闘に意味があることが本作特有の奥深さに繋がっている。

肴倉もろみ

最少ターン数で切り抜けるにはどうすれば良いか? 思い通りの結果を導き出せた時の達成感がこのゲームの醍醐味です。 プレイヤーのレベルアップも実感でき、高い中毒性がありますね。

旅の相棒ヲクウ

元人間の女の子。

肴倉もろみ

紹介が遅れましたが、ジンのパートナーとなるのがこちらのヲクウです。 ヲクウは元々人間の女の子なのですが、呪いによって魔物の姿に変えられて彷徨っていたところをジンに助けられ、行動を共にします。

ガマズミ

元気で明るい子よ。 ジンはいわゆる喋らない主人公だから、ストーリー上の会話はほとんどヲクウが引っ張ってくれるわ。

更科みどりこ

このあと海の兄神やその配下との戦いが待っているんだけど、 道中ではヲクウの人間性が幾度とクローズアップされるの。 もうね、とっても良い娘なのよ!

2人の道を塞ぐのは、同じ人間による猜疑心と偏見。

ピータン

ヲクウは魔物の姿に変えられても気丈に振る舞い、ジンをサポートしてくれる。 しかしその姿ゆえに旅先では迫害され、時には殺されそうになってしまうこともあるんだ。

肴倉もろみ

それでも彼女は人を恨むことなく、必死に辛い胸の内を隠して旅を続けます。 その健気な姿に心を打たれるんです。

更科みどりこ

だって元は普通の、年頃の女の子なのよ。 こんな残酷な仕打ちを受ける謂れはないのに、可哀想すぎるわ。

ガマズミ

あるイベントでヲクウは村人に罠にかけられて大怪我を負ってしまうわ。 治療のために一時的にジン1人の力で旅をすることになるんだけど、ここでヲクウのありがたさを嫌というほど思い知るでしょうね。

ピータン

ヲクウは空を飛んでジンを運んだり、離れた敵を攻撃したりと戦闘面でも大きく活躍してくれる。 ヲクウがいなければジンは段差ひとつを登ることさえできないんだ。ヲクウのいないこの時期は本当に苦しく重い気持ちにさせられる(´Д`;)

ヲクウの能力は強力かつ多彩。

肴倉もろみ

ヲクウ自身も、自分の使う魔物の力がジンの役に立つことはよく知っています。 だから道中で人間に戻れる薬が手に入った時も自分では使わず、同じように魔物にされた別の人間に譲ってしまうんです。

あれほど戻りたがっていたのに。

更科みどりこ

どこまでも献身的だわあ(TДT)
こんなの、なんとしてもヲクウのために頑張りたくなるでしょ!

ピータン

どんなことがあっても決して別れようとはせず、逆に勇気と元気を与えてくれる。 『二人の勇者』と並び立てられるだけの力と絆を確かに感じ取れるだろう。

旅の行方

更科みどりこ

だけど、苦労してエンディングを迎えても結局ヲクウは元の姿に戻れないままなのよね…。

ガマズミ

あら。

肴倉もろみ

え?(^^;)

ピータン

お前、さては一回しかクリアしてないな?

更科みどりこ

そりゃそうよ…報われないエンディングがショックだったんだもの。 だけどその態度怪しいわね。…もしかして?

肴倉もろみ

ええ、ヲクウを人間に戻す方法はあります。

更科みどりこ

!!!

グッドエンドへの道

肴倉もろみ

それには勾玉の数が関係してきます。 ヲクウを元に戻すためには1300個もの勾玉を集めなければなりません。

ガマズミ

ちなみに通常クリアするのに必要な数は800個よ。 道程は険しいものになるでしょうけど、あなたならやるわよね?

更科みどりこ

やるしかないでしょそんなの!Σ(゜Д゜)
ヲクウのためなのよ!

ピータン

その気概があれば1300個なんてすぐだな。 それと、詳しくは言わないが着物もちゃんと買っとけよ。 元の姿を取り戻したヲクウとの結末は是非とも自分の目で確かめてほしい。

最後に

肴倉もろみ

本作に対する評価を纏めると、古代日本神話をモチーフにしたストーリーと斬新な戦略性を持った戦闘システムとの組み合わせが独自の個性を放ったスーパーファミコン後期の良作、ということになるでしょうか。

更科みどりこ

後期になり過ぎて知名度が上がらなかったのは残念なところだけど(^^;)

ピータン

概ねよくできていると思うんだが、しかし所々にバランス面での調整不足の跡を感じないでもない。 やはり開発体制の不備が最後まで響いたんだろうな…。

ガマズミ

当初の納期で開発されて、エニックス資本のバックアップによる宣伝を受けて発売されていたらもっと流行ることができたんでしょうね。 本作がこのまま忘れ去られないことを願うわ。

初稿:2020年9月7日

最終更新:----年--月--日

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