◆ストーリー◆
(取扱説明書より)
クインティを製作したゲームフリークがプラットフォームをスーパーファミコンに移して手掛けたアクションゲーム、 『ジェリーボーイ』について取り上げましょう。
ソニーはスーパーファミコンの音声チップ開発に携わっていた。 そこで自社グループからもソフトで参入するため、ゲームフリークに白羽の矢を立てたんだ。
ゲームフリークが株式会社になって初めて参画したゲームソフトよ。 とはいえゲームフリークが担当したのは企画とグラフィックだけで、プログラムはPCゲームで実績のあったシステムサコムがやっているわ。
ゲームフリークは当時まだ社員数が少なく、規模の大きなスーパーファミコンのソフトを丸ごと製作する程の実力はなかったようです。 そうしたこともあっての分業ですね。開発自体はスーパーファミコンの発売前から始まっていたようです。
◆ストーリー◆
スライムに変えられてしまったジェリー。
企画の根本はスライムが主役のゲームであることだった。 当初はアクションRPGとして進められたが、変遷を経て『スライムならでは』のアクションを取り入れた変わり種のアクションゲームとなった。
スライムはジェリーと呼ばれることもあるからこんなタイトルになったのね。
主人公の名前はそのままジェリーですが、弟の名前と合わせて『トムとジェリー』です(^^)
仲良くケンカしな。
!!?(゜Д゜;)
そこ触れちゃうかー(´Д`;)
十字キーの上を押すと体を伸ばすことができる。
気を取り直して、肝心のスライムならではのアクションだが、まずは『伸びる』。伸びながら敵をつついて倒すことができるんだ。
十字キーの下を押すとぺちゃんこに潰れる。
次は『潰れる』。潰れながら広がって敵をつつき倒すことができます。
XまたはYボタンを押したまま壁や天井にぶつかると貼りつく。
続いて『貼りつく』よ。壁や天井を這って進むことができるわ。 たとえ地面がトゲだらけの場所でも、天井を伝えば怖くないわね。
狭いパイプの中もなんのその。
排水管の中を進むことだってできる。 後々これを利用したパイプの迷路のようなステージも登場するぞ。
このように体を伸び縮みさせたり貼りついたり、スライムの不定形で粘性のあるイメージをうまく活用して説得力のあるアクションに落とし込んでいます。
スライムっぽくないところも少なくはないんだけどね。 不定形とは言うけどジェリーの体はゼリーや寒天みたいでプルプルしてるし。 でもこの操作感は新感覚だわ〜。
形状においてはいわゆるドラゴンクエストが生んだスライム像ですね(^^) 普段は固形状だったり青い色をしているのは明らかに影響を受けていると思います。
XボタンかYボタンを押したまま操作するとダッシュすることもできる。 スライムが速く動くのは妙な気もするが、慣れるとスイスイ動かせることができて快適だぞ。
もうひとつジェリーの特殊能力として、体内にボールを蓄えることができます。
ボールはチューリップなどから採れる。
ボールは吐き出して敵にぶつける投擲武器よ。 赤のボールは使い捨てだけどお腹の中に9個まで貯めておけるわ。
お腹の中に蓄えて…吐き出す!
正確には、10個目を取るとボールを全部失う代わりにライフが1つ回復するんだ。 ピンチに備えて普段から多めに蓄えておきたいところだな。
ボールにはいくつか種類があります。 体内に入れているとジャンプ力を高めてくれるものや、動きが鈍くなる代わりに何度使ってもなくならない鉄球などですね。 それぞれの特性を使いこなしましょう(^^)
さて、それではジェリーの冒険を追ってみよう。 本作は全8ワールドで、各ワールドにはA面とB面があるため全16ステージ構成となっている。
旅路の始まり。
下水道に流されたジェリーはどこかの草原に辿り着き、旅はここから始まります。 最初のステージでひととおりの操作を試せるようになっていますので慣れておくといいですね。
廃墟と化した街。
B面は破壊された街が舞台だわ。 なんでも大きな鳥の怪物の仕業らしいわよ。
家を破壊する巨大怪鳥バーディ。
ステージ最後ではその鳥『バーディ』との対決だ。 ボールを用意しておくのが良いが、なければ伸びながらジャンプする攻撃が効く。 バーディは巨体に見合わず耐久力がない。見た目に呑まれるなよ。
下水道には危険がいっぱい。
新しい街に着いたけど、下水道を通らないと街中には出られないみたい。 でもスライムの体なら平気ね。
狭い場所が多く、天井や壁にはトゲも生えていて危険です。 ここは貼りつきのテクニックが活きますね。
ここまで近づいたのに。
街にはジェリーを探すためにエミーがやってきていた。 しかし間一髪で間に合わず、エミーは車で去ってしまう。
鳥から魚が降ってくる。
エミーを追いかけて遺跡を抜けたところでボス戦です。 数羽の鳥が集合していて、その隙間から魚を落としてくるちょっと変わったボスです(^^;)
鳥が魚で攻撃してくるって、ちょっとシュールな光景すぎない?(´Д`;) でもこの隙間さえなくしてしまえば攻撃手段がなくなるから、真ん中あたりの鳥から各個撃破していくといいわ。
襲い掛かる砂。
ワールド3は砂漠だ。 ジェリーが溶けてしまわないか心配になってしまう陽射しだな。
このステージでは流砂に流されたり、砂の中から敵が飛び出してくる仕掛けがあります。 翻弄されないように注意しましょう。
手からレーザーを放つ砂煙の魔人サンボ。
ここのボスは体が砂煙でできているんだけど、その部分にはダメージが入らないわ。狙うのはただ一点、顔面を集中攻撃するのよ!
古代のロケット。
魔人サンボが守っていたのはロケットだった。 ジェリーは躊躇いなく乗り込むが、このロケットはジェリーをどこに誘うのであろうか…。
月面には何が待つ?
ジェリーが降り立ったのは月よ。 ここは地面が円形になっているのよね。小さい星の上って感じが出てるわ。
宇宙に浮かぶ星座や可愛いウサギたちが彩るムードが幻想的で、低めの難易度も相まってゲーム内屈指の癒しステージとなっています(^^)
ボス・くじら座のお化け。
月はステージが短く、ボスもやけに弱い(´Д`;) ストーリー的には中盤の山場なんだがな。 まあ難しいばかりでも疲れるし、これはこれでメリハリがあって良いのかもしれない。
天使の町では色々な真実が聞ける。
ボスを倒し、再び地上に降りる途中で天使の町に立ち寄ります。 閉じ込めていた魔法使いが逃げたということで騒ぎになっているのですが、この魔法使いというのはもしかして…?
海の中もスイスイ。
空から降りたジェリーは海中に落下するわ。 幸い泳げるからいいけど、これだけ色んな場所に出ると目的地に近づいてるのか心配になるわね(^^;)
立ちふさがる鯨。
青く澄んだ海は綺麗ですが、敵が多くじっくり見てる暇もありません。 泳いでいるうちに遭遇したのは巨大な鯨。じろりと睨まれ、ちょっと危ない予感がします(^^;)
おばあさんの安否を憂うおじいさん。
予感通りジェリーは飲み込まれてしまう。 そこにいた先客のおじいさんは10年もここにいると言い、出口がないことを嘆いているが、ジェリーならどんな小さな隙間でも突破できる。 おじいさんをこのまま置いていくのは気が引けるがな…。
隙間を抜けた先の小部屋にはおばあさんもいるのよ。 10年前におじいさんと釣りに出かけた時に飲み込まれたんだって。 こんなに近くにいるのに会えなくて、お互いの安否も知らないなんて悲しいわ…。
蝶ネクタイがトレードマーク。
鯨のお腹から脱出し、流氷地帯を抜けて戦うボスは太ったペンギンの『ぎんぞー』です。 このボスも魚を吐いて攻撃してくるのですが、軌道がワンパターンなので見切ってしまえば苦戦はしないと思います。
オーロラとペンギン。
流氷から上陸すると本格的に寒い土地に来た。 オーロラも輝く美しい場所だが、氷原は滑りやすくジェリーのコントロールが覚束ない。
滑りやすいところに1マスだけの足場など、難所が増えてくる。
ただでさえ滑って操作が難しいのに、よりによってトゲや落とし穴も多いのよ! このワールドはかなりの難関だわ(´Д`;)
地元と住民からは怪物と恐れられている。
ボスは可愛い白熊です。 飛び回りながら氷を投げてくるので狙いを定めにくいですが、待っていれば近づいてくるのでその時を待ちましょう。 ここはボスよりも落とし穴に注意ですね。ボスの動きに気を取られていると滑って落ちそうになるんですよ(^^;)
険しい登山。
草木の生い茂る山にやってきたけど、ジェリーにはどうやら見覚えがあるようよ。 ここはお城の裏山なんだって。
道らしい道もなく起伏の激しい山だ。 ジャンプを多用することになるが、途中で踏み外したり川に流されて落ちたらまた登り直しになるのがなんとも厳しい。
険しい登山。
山頂の集落では王国の現状が噂になっています。 なんでも、行方不明になったジェリーの代わりに弟のトムが新国王に即位したんだとか…。 残された時間は少ないようです。
滝も登れるパワフルな魚。
気持ちは逸るけど、やっぱりボスが邪魔するわ。 鋭い背びれに滝登りからのダイビングアタック、最後には自分の骨まで飛ばしてくる多彩な技の使い手よ!
これまで魚を武器にするボスは2体もいたが、いよいよ魚そのものが相手になった。 滝を登っている隙にボールを当てると楽に倒せるから、道中は無駄遣いせずキープしておくといい。
誰もジェリーだとはわかってくれない。
ようやく故郷に帰ってきたジェリーですが、今は異形の姿です。 見知った兵士には襲われ、歓迎するものは魔法使いの罠だけでした。
ギロチンの振り子をかわせ。
最終ワールドだけあってこの城のステージは長い。 決して焦らず、これまでに培った操作でひとつひとつの難所を乗り越えていこう。
ステンドグラスを破り突入。
教会ではトムとエミーの結婚式が始まろうとしていたわ!何とか間に合ったみたい。
魔法で巨大化なスライムと化したトム。
魔法使いはトムをスライムに変え、ジェリーにけしかける。 トムは操られているんだ。
トムの体は大きいけど動きは早くないわ。潰れ攻撃の連続で決めてしまいましょう。 早く魔法使いを追わなきゃ!
最後の戦い。
逃げる魔法使いを追い詰め、これが最後の戦いです! 次々と繰り出される強力な魔法に耐え、ジェリーはすべてを取り戻すことができるでしょうか。
本作を振り返ってみて感じるのは、企画の纏まりの良さだ。 色んなゲームをプレイした経験があれば気が付くかもしれないが、壁や天井を這い狭いところに潜るアクションゲームは特にこれが初めてというわけではないんだ。
正解を言ってしまうと、忍者が主人公のゲームでは概ね採用していた要素ですね。 具体的な心あたりがある人も多いのではないでしょうか。
だけど忍者をスライムに置き換えたというところが上手いわよね。 忍者だと世界観が限定されちゃって、見た目が似たようなものになっちゃうことが多いし。
スライムだからファンタジー世界を舞台にできたし、バラエティに富んだマップを用意できたわけだ。 砂漠に宇宙に海に雪山に、どれも印象に残るステージだ。
もちろんマップの見た目だけではなく、ジェリーの性能を発揮できるようステージ構成も工夫されています。 スライムを主人公にしたという物珍しさに注目しがちですが、既存のシステムを基に必要なものを丁寧に積み上げています。
と、ここまでは褒めてきたが気になるところもある。 残念ながら調整不足を感じるところも所々あるんだ。
あー、ボタン配置についてはひとこと言いたいわ。 XボタンとYボタン、なんでこんな風にしちゃったのかしら?(^^;)
X・Yボタンでダッシュすると言うのは先に説明しましたが、実はボールを発射するのもX・Yボタンなんです。 つまり、ダッシュしようとボタンを押すとボールを1つ消費してしまうことになるんです(^^;)
ボールを上に投げてボタンを押したまま再キャッチするというテクニックもあるが、狭いところでは使えないしスマートではない。 この仕様はやや不可解だ。
本作ではL・Rボタンを使用しないのでボタンが足りないというわけでもないんです。 事実、海外版ではボタン配置が変更されてボールの発射はL・Rボタンに割り振られています。
一部のボスがやけに弱いのも気になるわよね。 ほとんど動き出す前に倒せちゃうのもいるし。
そのあたりは開発体制に原因がありそうだ。 ゲーム制作というのは仕様書通り作ればそれでいいというものではない。 良いと思って提案したデザインも、実際に組み込んでみるとイメージと違ったというのはよくあることだ。
通常はテストプレイを繰り返して中身を磨いていくのですが、企画と制作を分業した本作ではその間のやりとりがうまくできなかったようなんです。
グラフィックも当初はシステムサコムが担当していたが、写実的な仕上がりに難色を示したゲームフリークが修正したらしい。 それで画面こそポップにはなったが、演出まわりまでは直しきれなかったようでな。
所々で画面に似合わない、歪で不気味な雰囲気を感じることがあるのはそのせいだったのね(^^;)
当のゲームフリークもインタビューで本作の完成度には心残りがあると答えていた。 総合的には楽しく遊べる出来栄えになっているが、仕上げが良ければもっと高い評価を得られただろうと思うと惜しい。
ゲームのパッケージに雰囲気を似せた単行本の表紙。
またまた余談になりますが、ジェリーボーイもクインティと同様、キャラクターデザインを担当した杉森建さんの手で漫画化されています。 1991年にゲーム雑誌『ファミリーコンピュータMagazine』誌上にて短期連載されていました。
漫画部分はこちらにも再録されている。
ゲームでは容量の都合で多くは語られなかったストーリーをしっかりと描いている。 単行本は既に絶版だが、作品集『杉森建の仕事』に全話再録されているから興味があれば読んでみるといい。
でも単行本の方にはこっちでしか読めない製作者インタビューが入っているのよね。 裏話やゲーム制作の思想が知れてわりと興味深い内容だから、できれば探してみてほしいわ。
このように概ね良い評価を得た本作は続編も計画されていた。 ゲームフリークの田尻社長が言うには、99%完成するところまで行っていたという。
タイトルは『ジェリーボーイ2 ちょっとあぶない遊園地』です。 前作とのつながりは薄く、魔法使いにスライムの姿に変えられた5人の子供と1匹の犬たちが遊園地ジェリーランドを冒険するという内容になるはずでした。
『杉森建の仕事』より。パッケージのラフデザイン?
遊園地のアトラクション1つがそれぞれ1つのワールドになる予定だったのよ。 仲間たちはそれぞれ使える技が違ってて、特徴を活かした使い分けを楽しむことができたみたい。
開発は順調に進み、販促も始まっていたから当時どこかで目にした人はいるだろう。 しかし最終的に本作は発売中止となり、世に出ることはなかったんだ。
発売中止の理由はパブリッシャー側、つまりソニー側の事情にあります。 ソニーはスーパーファミコンの部品開発などに協力していましたが、当時任天堂と共同で取り組んでいたCD-ROMシステムの開発をめぐり関係が決裂、単独でプレイステーションを発売する方針を打ち出し両社は対立してしまいます。
こうなった以上、ソニーからすればライバルハードでソフトを出すなんてもっての外ということね。 まあ理解はできる背景だけど…楽しみにしてたファンからしたら割り切れないわあ(´Д`;)
実はもう一度チャンスがあったんだ。 1997年の初頭、ゲーム雑誌で電撃的に紹介されたスーパーファミコンの新作タイトルがある。 名前を『マジックボール』と言うんだが、その画面写真を見てとても驚いた。
それは紛うことなくジェリーボーイ2でした。 ゲームフリークが制作するアクションという紹介文、スペシャル技を披露する6色のスライムや遊園地をモチーフにしたワールドマップなどの画面写真、タイトルこそ違えど間違いなくジェリーボーイ2だったんです。
権利に抵触しないようタイトルを変え、新たなパブリッシャーを見つけてまで発売しようとしたんだな。 しかしこの第一報以降は新たな情報もなく、結局またも発売中止となってしまうんだが。
2度目の発売中止の理由は明らかではないのですが、スーパーファミコン市場の縮小が原因ではないかと思います。 当時は1997年、次世代ハードウェアのNINTENDO64が発売した翌年でした。ジェリーボーイの続編として大きく売り出せない事情もあり、思うように注文が集まらなかったのではないでしょうか。
しかしこうして発売しかけていたということは権利上の問題はクリアしていたとも見れる。 ジェリーボーイはソニーに権利があるからこれまでも復刻の機会はないのだが、2…マジックボールはもしかしたら今後日の目を見る可能性がないとも言い切れない。
ゲームフリークとソニーの間は特に不仲というわけではありませんしね。 現にその後もプレイステーションの『クリックメディック』でタッグを組んでいます。
一度は復活しかけたんだし、二度目があってもいいわよね。 ほとんど完成してたなんて聞かされちゃったもんだから、どこかで諦めきれないのよ(^^;)
昔発売中止になったタイトルが後の世に復刻されることは実際に何度か起こっています。 ゲームフリークも健在ですし、可能性は極めて低いと思いますがそういうことが起きると嬉しいですね(^^)
初稿:2020年8月27日
最終更新:2020年8月29日