今回は『将棋の星』を取り上げよう。 本作はメガドライブで唯一の将棋ソフトとなっている。
メガドライブはアーケード指向が強いハードで、シューティングやアクションは多かったけどテーブルゲームはちょっと少なめだったわよね。
開発・販売を行ったホームデータはアーケードや他の家庭用ハードで麻雀、囲碁、将棋などの卓上ゲームを主にリリースしていたメーカーで、本作がメガドライブへの参入第一弾となります。
コンシューマでは下請けが多かったことから、当時はアーケードで脱衣麻雀を何作もリリースしていたメーカーという印象があったな。
ああ、それを聞いて少し納得したかも。 『将棋の星』には当時の将棋ゲームには珍しくストーリーやイカサマ技が搭載されているんだけど、脱衣麻雀でよくある手法を踏襲していたのね。
本作はストーリーを追う『アドベンチャーモード』と対局のみの『本将棋モード』で構成されています。 まずはストーリーモードから見ていきましょう。
特訓に励む主人公の少年『金太』。
母の指導のもと厳しい将棋の修行に励んでいた主人公の少年『星 金太』。 やがて必殺技をマスターした彼は、これまで課せられた特訓の意味を母に問う。
お母さんは答えます。 金太くんのお父さんは悪い地下将棋シンジケートのボスの片腕として働いていたのですが、子供が生まれた際に足を洗って組織を抜けようとしました。しかしその後の消息は分からないまま、血塗れの指輪だけが届けられたそうです。
衝撃的な母の告白。
お母さんはシンジケートへ復讐するために金太を鍛えていたのね。 事情を知った金太はお母さんの涙に応えて敵討ちのために動き出すわ。
と、あらすじだけを追えばシリアスにも見えるのだが、本作はパロディ要素を盛り込んだギャグ仕立てのストーリーとなっている。
それは『将棋の星』っていうタイトルやタイトル画面の構図からも見て取れるわね。 明らかに野球漫画の『巨人の星』がモチーフになっているもの。
本作タイトル画面と『巨人の星』原作ワンシーンとの比較。構図が酷似している。
また巨人の星の主人公『星 飛雄馬』の父親は『星 一徹』と言うのですが、本作の金太君のお母さんの名前は『星 いってつ子』となっており、あからさまに流用されています(^^;) キャラクター設定としても指導者としての役割やギプスを着けさせての特訓スタイルなど、パロディ元を強く意識していますね。
さらに極めつけとしてタイトル画面のBGMにアニメ版巨人の星の主題歌を流用するという徹底ぶりだ。 それもわざわざこのためにJASRACの許諾を取っており、本作のパロディにかける姿勢が伝わってくるな。
だけど、こうやって最初に『巨人の星のパロディ』なんだって強く思わせておきながら巨人の星っぽいところはもうこれで終わりなの。 この後は特に何もなくって、ちょっと肩透かしだったわ(^^;)
本作のギャグの特徴として、少し外したところで笑いを取る方向性のようですね。 熱血スポ根ものの巨人の星に対し本作はナンセンスで不条理なギャグが多くなっていることからも窺えます。
ギャグ調のストーリーを盛り立てるために登場キャラクターはインパクト重視だ。 どいつもこいつもかなり癖が強く、一度見たら忘れられない個性を持っている。
強烈な個性のキャラクターが噛み合わない会話を繰り広げるのが見どころですね。
ボケとツッコミが次々入れ替わったりツッコミ不在でボケのかぶせ合いが続いたりするナンセンスさは人を選ぶと思うけど、当時のギャグマンガでもよく見られたスタイルだからわりと受け入れられていたんじゃないかと思うわ。
ギャグマンガのような会話の応酬。
主人公側の金太や母からしてふざけ倒すからな…。 難しいことは考えずに都度その場のノリを面白がるのが本作への正しい接し方だろう。
それで肝心の将棋についてですが、ストーリーがギャグに振り切っている反面、手堅い作りになっています。
対局中の画面。
思考型のゲームはCPUの強さや演算速度がハード性能に依存する。 様々な状況に対処できるようにCPUの能力を上げればそれだけゲームが遅くなってしまうのが普通なのだが、本作のCPUはそれなりに強くそして速い。 当時としては特筆すべき性能で、16BIT機のメガドライブの強みが存分に活かされている。
そうそう、見た目がふざけたキャラクターばかりだけど戦うとちゃんと強いのよ。本格的な将棋を求めていた人もこれなら安心ね。
ストーリー中には指し将棋の対局だけではなく詰将棋や将棋にまつわるクイズも差し込まれていて、将棋を幅広く楽しむことができるの嬉しいポイントです。
詰将棋は3,5,7手詰めの問題が複数用意されている。
ただしストーリーモードでは必殺技やアイテムという通常の将棋にはない要素があるため、必ずしも本格的というわけではない。 それらを排除して遊びたいなら『本将棋モード』をプレイするといいだろう。
必殺技とアイテムは対局中に使うと色々な効果のあるもので、逆転や追い込みのために使えるのよ。
必殺技は1局のうち3回まで使用可能な各キャラクター固有の技です。 例を挙げると1度の手番で2回コマを動かせたり、動かす際に画面をフラッシュさせてどこを動かしたのか分かりづらくさせたりなどの効果があります。
必殺技もじゅうぶん反則級の強さなのだが、アイテムの効果はさらに強烈だ。所持数している個数分しか使えないため安易に使えるものではないのだが、それだけに局面へ与える影響がとんでもない。
どれも便利で強いけど、特に盤面を入れ替える『ババンバ バンバン』がインチキすぎると思うのよ。 これさえあればどんな逆境もひっくり返せちゃうんだもの(^^;)
究極の逆転アイテム。
単体でも強力なのに、さらに持ち駒を入れ替える『こまれ!コマ台』と合わせて使うことで完全に劣勢を覆せるからな。 わざと自分を窮地に追い込んでからこれらを使えば簡単に逆転できてしまう禁忌の組み合わせだ。
アイテムは会話中に選んだ選択肢によって入手できることがあります。 どの状況でどのアイテムがもらえるのか、色々試して覚えておくと攻略に役立ちますよ(^^)
会話の進めかた次第ではアイテムがもらえることも。
アイテムは対局で負けた時の会話でもらえることが多いから、あえて投了を繰り返せば集中的に集めることもできるわ。 ちょっとずるいかもしれないけど救済措置と考えれば有難いところよね。
本将棋モードでは必殺技もアイテムもなく、CPUと通常の対局を楽しむことができる。
CPUの強さは5級〜初段までの6段階から選べます。 自分の実力に合わせて選ぶといいでしょう。対局終了後は感想戦を行うこともできますよ。
感想戦では対局を振り返って指し手の良し悪しを検討するのよ。 将棋の上達のためには欠かせない要素なんだけど、現実の将棋で感想戦をするには棋譜をいちいち記録しなきゃいけないから大変なのよね。 このゲームは自動で全部記録してくれるから助かるわ。
しっかり取り組めば棋力向上につながる手ごたえを感じられますよ。便利に活用しましょう。
主人公の金太が悪のシンジケートに立ち向かうアドベンチャーモードと本格的な本将棋モードの2本立てとなっている本作、それぞれ違った気分で楽しめるのが良いところだ。
アドベンチャーモードの奇想天外で不条理なギャグストーリーには着いていけないこともあるけれど、不意に笑わされることもあるし一度体験する価値はあると思うわ。
将棋は頭を使って考え抜く遊びなので、この頭を空っぽにして楽しめるストーリーはいい対比になっていますね。 疲れた頭への清涼剤の役目を果たしている側面があります。
こういう将棋や囲碁なんかの思考ゲームは後の世の高性能なハードの方がどうしても思考力や速さで勝るんだけど、本作のストーリーはインパクトがあるから遊んだ人の記憶にはいつまでも強く残るでしょうね。
また、CPUの思考時間が短くてサクサク打てるのは嬉しいところだ。 強さのレベルも細かく用意されていて、自分の棋力に合わせて対局できるところも良かった。
詰将棋はそれ単独でプレイすることが出来なくてアドベンチャーモード内でしか遊べないとか、本将棋モードは対人戦ができないとか、難点もないわけじゃないんだけどね。機能面で少し物足りなく感じちゃうのは否めないわ。
その不足感については本作の容量が2MBとメガドライブソフトの中でもかなり少ないことが影響しているんだろう。 それにメガドライブの開発も初めてで慣れていなかったろうし、仕方のないところかもしれん。 だからこそホームデータにはぜひ次回作を作ってほしかったがな。
結果的にメガドライブで唯一の将棋ゲームとなったのが良くも悪くも最大のセールスポイントですね。 1作しかないということは需要がなかったということでもありますが、メガドライブで将棋を遊びたいのなら必ず本作を検討することになります。 記憶に残る作品なので興味があればプレイしてみてください(^^)
初稿:2024年08月26日