眠り薬と赤い水

ドラゴンクリスタル ツラニの迷宮ゲームギア|ゲームレビュー

パッケージ表

パッケージ裏

ROMカセット

タイトル画面

ローグ

ピータン

『ローグライク』というゲームジャンル、その発祥は1980年にアメリカで誕生したダンジョン探索型RPG『rogue』であり、『rogue』の特徴を取り入れたゲームを『ローグライク』と呼ぶようになったんだ。

紫手織ガマズミ

rogueの特徴はひとつじゃなくて幾つかの要素を組み合わせたところにあるけれど、代表的なところではランダム生成ダンジョン、ターン制の戦闘システム、ターン現象に伴い減少する食料、死亡によるリセットあたりが挙げられるわ。

肴倉もろみ

これらの要素は製作者が自分たちが飽きずに何度でも遊べるようにという思想のことで導入されており、独創的なミステリアスさに満ちています。その試みは功を奏し、プレイした多くの人たちを虜にしました。

更科みどりこ

魅せられた人たちが多くの派生作品を作り、やがてひとつのジャンル名となるほどに拡大したローグの輪。 アメリカでは早い段階で広がっていったけど、日本での普及は少し遅れることになるわ。

紫手織ガマズミ

日本ではアスキーが積極的に動いていて、パソコン雑誌の『LOGiN』で度々取り上げていたり、1985年にパソコン通信サービスのアスキーネットで無料開放したり、翌1986年にはPC-98シリーズを始めとしたパソコン向けのパッケージ版をリリースしたりしていたわ。

LOGiN 1985年9月号より紹介記事を一部抜粋。

ピータン

それらで存在と面白さを知った人たちも少なくはないが、まだまだパソコン自体の普及率が低いこともあって大きなムーブメントとなるには至らなかった。複雑で奥深いゲーム性が広く正しく認知されるにはもう暫しの時間を要する。

肴倉もろみ

日本で広く認知されるようになったのは1993年にチュンソフトがスーパーファミコンでリリースした『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』のヒットによるところが大きいでしょう。この作品はローグの複雑なルールにひとつひとつ向き合い、段階的にわかりやすくローグの持つ面白さを伝えるように腐心しています。

『トルネコの大冒険』より。

更科みどりこ

『トルネコの大冒険』は約80万本を売り上げて一躍ローグライクゲームというものが知られるようになって、同タイプのゲームがたくさん作られるようになっても不思議のダンジョンはローグライムゲームの代名詞として扱われるようになるのよね。

紫手織ガマズミ

だけど『トルネコの大冒険』以前にもローグの面白さに着目してコンシューマゲーム化にチャレンジしたゲームはあったのよ。 今回はそのひとつ、ゲームギアの『ドラゴンクリスタル』を紹介するわ。

オーシの冒険

◆プロローグ◆

トリエスト王国にある魔法学校。その4年生にオーシという少年がいた。
夢は偉大なる魔法使い。しかし彼は、ひっこみ思案のいじめられっ子だった。
ある日のこと、オーシは学校にある水晶の玉につまずき、ぶつかってしまった。
そのとたん−−−。
気がつくとオーシは水晶の中に入っていた。そのとき一緒にいた愛犬のポチは、卵に変わってしまった。
水晶の世界は、今までいた世界とはずいぶん違っていた。
木にかこまれた迷路の地形。そばを通ると突然咲き乱れる花。
かと思うと 変な顔をした石像がニヤリと笑う。モンスターもいっぱいいる。
もうだめかと思いながら、オーシは必死でモンスターと闘った。
これが知恵と勇気を試すということなのか。
今、もとの世界に再びもどるための冒険が始まる−−−。

(取扱説明書より)

突然見知らぬ世界に放り出されたオーシ。

ピータン

ゲームをスタートすると、これといった導入もなしに迷宮内に放り込まれる。 不安な気持ちはあるだろうが脱出のために手を尽くそう。

更科みどりこ

クリア条件は全30フロアを踏破して聖杯を手に入れることよ。 フロアのどこかに配置されている魔法陣に乗ると次のフロアに進めるわ。 襲ってくるモンスターに倒されないように探し歩きましょう。

この魔法陣が各フロアの出口となっている。

紫手織ガマズミ

ダンジョンはグリッド単位で仕切られていて、こちらが1つ行動するたびに敵モンスターも1つ行動するわ。 1グリッド分移動するか、武器を振るか、アイテムを使うか、どれかの行動をとると自分のターンが終了して敵が動くわよ。

肴倉もろみ

敵は戦って倒すもよし、相対せず逃げ回るもよしです。 こちらの体力や装備、敵の強さ、位置関係などの状況を勘案して最善な行動を導き出しましょう。

ピータン

しかし逃げ回ってばかりではレベルが上がらず、先のステージにいる強いモンスターに太刀打ちできなくなってしまう。状況にもよるが適度に戦ってレベルを上げていくのが基本だ。

襲い来るモンスターとの戦い。

紫手織ガマズミ

だけど同じフロアでいつまでも戦っているわけにもいかないの。 オーシは1ターンごとに食料を1消費するわ。食料の消費に応じてHPが少し回復するのだけれど、残量が0になると今度は逆にターンごとにHPが減るようになってしまうわ。食料の在庫は動ける回数に直結する重要な要素よ。

更科みどりこ

食料を始めとしたアイテム類はランダムに落ちているのを拾うしかないから無駄遣いはできないのよね。 1ターンの判断がゆくゆくの生死を分けることになるから、無駄な行動は取れないわ。

地形

4種の迷宮。

紫手織ガマズミ

地形のパターンは種類は森林・砂漠・花畑・モアイの4種類があるわ。 なかなかハイセンスね。

肴倉もろみ

モアイの側を通ると口がカパカパ開いて笑顔になるのがシュールで怖いんですけど…(^^;)

ピータン

壁際を歩くと壁のパーツが活性化して、木々やサボテンは緑に色づき、向日葵は咲き誇り、モアイは口を開けて笑う。 クセはあるが面白い演出だな。

更科みどりこ

この演出、見た目の面白さだけじゃなくて実用性もあってね。 と言うのも出口の魔法陣は壁の中に隠されているから壁際の探索は必須なんだけど、この仕様のおかげでどこの壁を調べたかが一目瞭然なのよ。

アイテムの識別

紫手織ガマズミ

アイテムの種類は剣、鎧、巻物、杖、薬、指輪、お金、食料の8種類あるわ。 このうち巻物、杖、薬、指輪は使って識別しないと本当の効果がわからないようになっているから、 早めに正体をつかんでおきたいわね。

使って初めて効果が分かる。

肴倉もろみ

茶色い巻物を読んだら『薬が変化した』とメッセージが出ましたね。 このメッセージは『ハイパースクロール』を読んだときのもので、手持ちの薬が全て『ハイパーポーション』に変化する効果があります。

ピータン

ということは今回の冒険においてはハイパースクロールであることが判明したというわけだ。 しかしアイテムの正体はプレイし直すたびに変わる。 次回の冒険で茶色い巻物がどんな効果を発揮するかはわからないんだ。

更科みどりこ

長い冒険を生き抜くためにはアイテムは欠かせないからしっかり識別しないといけないけれど、マイナス効果のあるものも少なくないから識別するのにもリスクがあるわ。 実行のタイミングはしっかり見極めてね。

紫手織ガマズミ

武器は15種類あってそれぞれ攻撃力が違うのだけど、幾つかは特殊効果が付いているものもあるわ。

ピータン

例えばメイジキラーは魔術師系、シノビソードはニンジャ系のモンスターに2倍のダメージを与える効果がある。 これらは本来それほど強い武器ではないのだが、相手に応じて使い分ければ切り札になり得る。

更科みどりこ

中には攻撃力は高いけど時々ダメージが自分に返ってくるハラキリブレードなんていう武器や、スライムだけにはダメージが通らないザンテツケンなんていう変わり種もあるけどね(^^;)

スライムの柔らかさはコンニャク並み?

肴倉もろみ

そのザンテツケンはアニメ『ルパンV世』の第2期における斬鉄剣のパロディですね。 なんでも切れるという触れ込みのにコンニャクだけはどうしても切れないという設定がありました。

ピータン

鎧は11種類あるが、多彩な効果が用意されていた武器とは違って特殊効果のあるものは1つしかないので基本的には防御力の高い物を身に着けておけばよい。

肴倉もろみ

状態異常を使う敵と戦う時だけリフレクトスーツに替えるのがスタンダードですね。 特にこちらのステータスを永久的に下げるドレイン系統の攻撃を仕掛けてくるファイアーツリー系やスネイル系の敵と戦うときは重宝します。

更科みどりこ

実際、リフレクトスーツがあるかないかで後半の難易度が大きく変わってくると思うわ。 早く手に入ると嬉しいアイテムね。

紫手織ガマズミ

杖は基本的に振った相手にダメージや悪い効果を与えるものなのだけど、中には面白い効果もあってね。 例えばバンザイロッド、これはどんなモンスターも敵を一撃で倒す代償に自分のHPが半分になるわ。

肴倉もろみ

一発逆転が狙えそうなロマンを感じる性能ですよね(^^)

ピータン

だが、杖は1回だけの使いきりだ。モンスターが複数いる場合はこれで1体倒したところで危険な状況は変わらない。 うまく運用するには他のアイテムとの組み合わせを考慮する必要があるな。例えば…。

更科みどりこ

ここは私が好きなバンパイアロッドと併用するのがいいわね! これはモンスターと自分のHPを交換する効果があるの。 あえて自分を瀕死に追い込んでから元気な相手に使えば、これまた形勢逆転よ!(^^)

肴倉もろみ

アイテムを使いこなす楽しさはローグライクゲームの醍醐味ですね(^^)

巻物

更科みどりこ

巻物は14種類あって、モンスタースクロールを除けば基本的に悪い効果はないわ。 だけど武器が変化する効果が4種類も含まれているから識別するタイミングには気を遣うわね。

ピータン

メインウェポンの性能が変わるのは困るからな。 性能の低い武器を持っている時は問題ないが、そうでないなら武器が複数ある状態で使わない武器に持ち替えてから識別するのがいいだろう。

紫手織ガマズミ

いざというときのためにハイパースクロール、テレポートスクロールあたりも確保しておきたいわね。

肴倉もろみ

薬は13種類登場しますが、やや識別が難しいジャンルです。 HPを回復したり各ステータスを上げてくれたりといった良い効果のものがある反面。混乱したり眠ったりレベルが下がったりと悪い効果も少なくありません。

更科みどりこ

識別さえしてしまえば、悪い効果のものは敵にぶつけて使うことで攻略の幅が広がるんだけどね。

ピータン

識別は敵がいない場所や魔法陣の手前で行うなどといった工夫が必要になるな。

指輪

紫手織ガマズミ

11種類ある指輪は最も識別に難儀するでしょうね。 有能なものが多いのだけれど、呪われたマイナス効果のアイテムが3つもあるの。

肴倉もろみ

呪われたアイテムはアンカーススクロールがないと外せないので、マイナスアイテムを身に着けてしまうと後が大変なんですよね(^^;)

更科みどりこ

識別はアンカーススクロールの入手を待ってからにするのが安全ではあるんだけど、当たりを引けば優秀な効果の恩恵を早くから受けられるから外れを覚悟で使っちゃうこともあるわ。 確率的には分の悪い賭けじゃないしね。

ピータン

そのあたりの運用は性格が出るよな。

お金

肴倉もろみ

階層を経るとお金が貯まってくると思いますが、本作には買い物の要素はありません。 ではお金は一体何のためにあるかと言うと、コンティニューのためなんです。

お金があれば復活のチャンス。

ピータン

1プレイ中に3回までという制限はあるが、ゲームオーバーになってもレベルと階層を引き継いでやりなおせるんだ。 代償に装備中の剣と鎧を除く所持品は奪われてしまうが全てを失うよりは断然ありがたい。

紫手織ガマズミ

このペナルティがあるからお金があっても緊張感を保ってプレイできるわ。 普通はローグライクゲームにコンティニュー機能を入れたらバランスが成り立たなくなりそうなものだけど、救済措置としてうまく馴染んでいるわね。

隠し通路

肴倉もろみ

ここからは本作特有の目立った仕様について紹介していきましょう。 まずは隠し通路についてです。

更科みどりこ

冒険中、どうしても出口の魔法陣が見つからないことがあると思うわ。 壁際を1マス1マス丁寧に歩いて踏破したはずなのにそれでも見つからない、そんなときは隠し通路を探してみましょう。

一見すると行き止まりのようだが…?

紫手織ガマズミ

隠し通路は通路の行き止まりや広間の壁などの一見何もないところに隠されているわ。 入口のある場所でボタンを連打すると発見できるのだけど、特に目印があるわけではないから探し慣れていないと苦労するでしょうね。

ピータン

かといってむやみにボタンを連打してしらみつぶしに探すということもできないんだ。 ボタンを押した分だけ食料が減ってしまうから、下手に探していると隠し通路が見つからないまま餓死することになってしまう。

肴倉もろみ

実は隠し場所にはある程度の法則性があるので、プレイに慣れてくると怪しい場所に目星が付くようになってきます。 プレイヤーの経験が物を言うので初心者が運でクリアするのは少々厳しいシステムではありますね。

愛犬ポチ

更科みどりこ

じゃあ次は愛犬のポチについて紹介するわ。 主人公の後ろを付いてくる丸い塊なんだけど、何を隠そうこれがポチなのよ。

主人公の後ろを健気について回る卵のポチ。

ピータン

言われないと何だかわからないような見た目をしているが、プロローグで言及されていた通りポチは卵に変化してしまったんだよな。

紫手織ガマズミ

ポチの姿はオーシのレベルが上昇すると徐々に変化していくわ。 まずレベルが4になると孵化するのだけど、犬じゃなくてドラゴンの姿をしていたから驚いたわね。

肴倉もろみ

さらにレベルが7になると大きく成長し、レベル12になると体色が落ち着いたグレーに変化します。 こうなると迫力もあって頼もしさを覚えますね(^^)

成長するドラゴン。

更科みどりこ

まあ、だからと言って一緒に戦ってくれることを期待しちゃいけないんだけどね。 ポチはいくら成長してもただ後ろを着いてくるだけで、その他は何もしてくれないんだもの(^^;)

ピータン

少し残念ではあるが、だからと言ってまるで役に立たないのかと言うとそんなことはない。 ポチは壁の役割をしてくれるんだ。 ポチは遠距離攻撃こそ貫通してしまうが、常に隣で立ち塞がってくれるためその方向から敵に襲われる可能性を大いに減らしてくれる。

紫手織ガマズミ

本作には斜め移動がないから最大で4方向からの攻撃を受けることになるけれど、そのうちの1方向を塞いでくれるポチはとても頼りになるわ。 難度を抑えるだけでなく、位置取りを工夫すれば戦いがさらに有利になるテクニカルな要素としても機能しているわね。

ハードとの相性

ピータン

数多のローグライクゲームが世に出ている現在の視点では本作の要素は比較的シンプルに映るが、 発売当初はユーザーに複雑なゲームとして受け止められていたように思う。

更科みどりこ

新しいジャンルのゲームが登場したときなんてそんなものだけど、ローグライクゲームはとりわけ覚える要素が多いからその傾向はあったわね。 理解すれば面白いんだけど、当時の感覚だとそこのハードルは決して低くないもの。

肴倉もろみ

それ故、原作のローグを初心者向けにする工夫は随所に施されています。 グラフィックの強化により状況を把握しやすく、お金によるコンティニューの機会を用意し、敵に一方的に囲まれないようにポチというお供を付けるなど、ローグ特有の理不尽とも言える厳しさを緩和することに余念がありません。

紫手織ガマズミ

ゲームシステムはユーザーフレンドリーに徹しているけれど、それだけに惜しいところが一点だけあるわ。 本作は中断セーブが一切できないようになっているの。

ピータン

中断ができないため、エンディングを見ようと考えたならクリアするまでぶっ通しでプレイしなくてはならない。 これ自体は昔のゲームでは珍しくないことだが、本作の場合は全30階層を踏破するのに順調に行ったとしても3〜4時間ほど掛かってしまい、これがゲームギアの本体性能と決定的に噛み合わないんだ。

更科みどりこ

何しろゲームギアはアルカリ単3乾電池を6本使って3〜4時間しか稼働しないものね。 まあ解決の手段は一応あって、ACアダプタを接続すれば商用電源から電力を供給できるわ。 持ち運びは出来なくなるけど、クリア目的でプレイするなら絶対に用意した方がいいわよ。

移植作品

紫手織ガマズミ

『ドラゴンクリスタル』はその後2003年になって携帯アプリに移植されたのだけど、 アプリ版はフロアを移動するごとに自動セーブされる仕組みが搭載されてコンティニューも無制限になったから快適性が大幅に向上しているわ。

肴倉もろみ

唯一とも言える難点を解消しただけでなく、携帯電話でプレイできるということで本作の『携帯できる初心者向けローグライクゲーム』という真のポテンシャルを発揮できたことは喜ばしいです(^^)

更科みどりこ

初心者向けを強調してきたけど、ゲームバランスがしっかりしてるからわりとローグライクゲームに慣れている人がプレイしても楽しめると思うのよね。 だから当時でも物足りなく感じることはなかったわよ。

ピータン

余談だが、さらにセガは同年に同じアプリ版として続編の『ドラゴンクリスタル2』をリリースしている。 新たなダンジョンが追加されたりネットワーク機能を用いて他プレーヤーと対戦できたり、正統進化と呼べる作りになっていた。

紫手織ガマズミ

それと1作目の方は2012年3月14日にニンテンドー3DSのバーチャルコンソールとして配信開始となっているわ。 バーチャルコンソールはエミュレーションでゲームを忠実に再現したものだからソフト側に中断機能はないけれど、『まるごとバックアップ機能』を使えば中断セーブが可能だからこちらも遊びやすくなっているわね。

肴倉もろみ

『まるごとバックアップ機能』はゲームの全ての状況を内容を任意のタイミングで保存する本体機能ですね。 昔のゲームは難しいものも少なくないので、重宝したプレイヤーは多いと思います。

ピータン

これらの移植版で本来のポテンシャルを見せてくれていたからこそ、アプリ版もバーチャルコンソール版もどちらも既に配信終了となっているのが惜しいな。 続編共々もう一度どこかのタイミングで復活してくれることを願おう。

初稿:2014年04月01日

初稿:2019年06月16日

改訂1:2025年04月06日

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