2000年夏、ある挑戦的なキャッチコピーを引っ提げて登場したゲームボーイのソフトがあった。
パッケージにコピーを掲げているのもまた挑戦的だった。
パッケージに大きく刻まれたのは『ファミコンRPGファン要チェック!』の文字です。 当時ファミコンやスーパーファミコンがメインの時代は既に去り、任天堂のメインプラットフォームはニンテンドウ64でした。
だけどその64だって翌年には次世代機のゲームキューブに道を譲ろうとしている時期。 ゲーム機の進化スピードが顕著で、古いものはあまり顧みられなかった時代よ。 リバイバルブームもまだ起きてないこの頃に使う売り文句としては珍しいものだったわ。
さらに言えば、世の中には後に全世界で4億台を売り上げることになる強大なスペックのプレイステーション2が登場したばかりだった。 それに対抗するセガと任天堂の図式も過熱しており、仕方のないことではあるが本作の存在は陰に隠れた。
ですが本作の存在を知った昔ながらのゲームファンは本作のメーカー名を知り驚くことになります。
本作の製作を手掛けたのはマイクロキャビン。 1980年代から1990年代前半に掛けて主にパソコンでアドベンチャーゲームやRPGのヒット作を多く開発したソフトハウスの老舗なのよ。
かつてのRPGをよく知る、歴史あるソフトハウスのマイクロキャビン。 そんなマイクロキャビンが何を考えてこのようなコピーを使ったのか、これから紐解いていきたいと思う。
主人公の性別は選択可能。
主人公はイクル村の少年(少女)。 いつものように学校で授業を受け、放課後にはいつもの仲間達といつもの公園に遊びに行く。 そしていつものように隣町の子供たちと張り合う。 しかし、ここから先がいつもと違っていたんだ。
公園で優先的に遊べる権利を賭けて。
今回の勝負内容は、町で行われる宝探しコンテストに参加して先に宝を見つけた者が勝ちというものよ。 だけど、会場の迷いの森を探索しているうちに主人公は奇妙な感覚にとらわれるの。
不思議な感覚の中で見えたイメージは…。
その感覚の中で見えたのは、この迷いの森にある隠し通路のイメージでした。 イメージの通りに進んで行くとそこには確かに道があり、さらに奥に行くと探していた宝箱が見つかったのです。
イメージの通りの場所に宝箱はあった。
これでバレンスとの勝負には勝ったわけだが、話はこれで終わらない。 宝箱を開けると森の奥から謎の二人組が現れる。 彼らはこのコンテストの仕掛け人で、コンテストと言う名目でこの宝箱を見つけ出すことができる特別な能力を持つ人間を探していたというんだ。
謎の二人組リーナ&タークス。
その二人、リーナとタークスは何か大切なものを探してるらしくて、それを見つけるために主人公の力を貸してほしいと頼んでくるわ。
この頼みを引き受けることで主人公は大いなる冒険の旅に出ることになります。 と言っても、家族や友人にも話せないお忍びの旅。冒険に出るのは毎日学校が終わった後、夕ご飯の間までです。
どこに行くかは母さんにも内緒。
これが放課後RPGの由縁だな。 この設定のため一度に遠出をすることができず、冒険のスパンは短いものになる。 初日は最寄りの関所を越えた地域にある町の西にある洞窟、翌日は町の東にある谷といった具合に行ける場所も限定されてくる。
最初のうちは近くまでしか行けないけど、一度行った町には自由に行ける転移の魔法があるから行動範囲は徐々に広がっていくわ。
冒険を進めていくと次第にリーナたちの素性や探し物の正体、そしてこの世界に迫る脅威が明らかになっていきます。
このあたりのストーリー展開はオーソドックスで悪く言えば意外性が少ないが、世界観や住民たちの台詞がよく作り込まれていて親しみやすい。 RPG初心者でも問題なくこの世界に入り込めるのではないかな。
でも一つだけ惜しいと思うところがあるのよね。 せっかく学生と冒険者の二足の草鞋を履く生活なのに、学校での描写がほとんどないのよ。 色々と料理できそうな素材なのにもったいないなって。
そのあたりは容量の都合かもしれませんが、二面生活という境遇を活かすイベントがあっても良かったですね。 学校がモンスターに襲撃されたりとか、主人公の活躍が他の生徒に知られそうになるとか、そういう想像が膨らみます。
美麗なクォータービュー。
戦闘画面はゲームボーイでは珍しいクォータービューで表現されている。 背景も描き込まれており、戦う場所によって別の絵が用意されている凝りようだ。
敵も味方もアニメーションで動いてくれるわ。 画面上が賑やかで見てて楽しいわよ(^^)
戦闘方式はコマンド選択式が採用されています。 装備した武器を使用する通常攻撃、MPを消費して放つ魔法、様々な効果を持つアイテムを使用するアイテムコマンドなど、馴染みのあるコマンドが並びますね。
魔法については後述するが、変わったところでは『テンション』というパラメータを搭載している。 画面右下のTと書かれた横にある数値がそれだ。このテンションは主人公がモンスターを攻撃したり、逆に攻撃を受けると増えていく。
テンションを上げるといいことがある。
テンションが100を超えると『暴走アタック』を繰り出せるようになるわ。 テンションの貯まり具合で3段階の性能に変わるんだけど、最大の255まで貯めると敵全体に複数の通常攻撃と魔法を一度に決めてくれるわよ。
怒涛の連続攻撃。
暴走アタックを使うと再びテンションは下がってしまうからここぞという場面に取っておきたいが、使いこなすには熟慮が必要だ。 なにしろ暴走アタックはテンションが255に達すると自動的に発動してしまう。 ボス戦のために使おうと思うなら適度な値で挑めるように道中の行動をコントロールする必要があるんだ。
雑魚とのバトルの最中、それもトドメが近いタイミングで勝手に発動しちゃったら言い知れない空しさを覚えるのよね(^^;) 使いどころをよく考えて動いた方がいいわ。
悩みどころは本作がレベルアップによる完全回復制を敷いていることです。 ボスの手前でレベルを上げてHPやMPが万全の状態で挑みたいところなのですが、それを優先するとテンションの調整が難しいんですよね(^^;)
ボスにどんな状態で挑むかはプレイヤーしだいね。 レベルアップを利用しないでアイテムで回復するのもありだし、そうしたやりくりを考えるのも面白いところだわ。
ひとつ言い忘れたが本作ではパーティーを組むことはなく、最後まで主人公が一人で戦うことになる。 リーナやタークスも一緒に旅をしているんだが、いつもハプニングで離脱してしまうんだ(´Д`;)
落石に閉じ込められたり。
船酔いでダウンしたり。
まだ旅慣れない主人公を先導しようとするもトラブルで閉じ込められたり、船酔いで戦えなかったり、ちょっと情けないシーンも多いですね(^^;) そうした印象が終盤の展開に驚きを添えているところもあるのですが。
1人での戦闘は回復の重要性が高いわよ。 回復魔法は真っ先に習得しておくといいわね。
水竜のペンダントには水のソウルを2つ填めこむ。すると…。
本作において魔法はレベルアップで習得するものではない。 ペンダントにソウルと呼ばれる魔法の宝石を組み合わせることで使えるようになるんだ。
水竜を召喚する魔法を使えるようになった。
ソウルには属性があって、ペンダントによって組み合わせられるソウルは決まっているわ。 ペンダントがあってもソウルが足りないとせっかくの魔法が使えないからしっかり集めましょうね。
ペンダントやソウルはイベントでの入手のほか、敵からのドロップやダンジョンの宝箱、お店から買うことなどで入手できます。 強力なものほど入手が難しい傾向にありますが、その苦労に見合った性能を発揮してくれるはずですよ。
手に入れた魔法やソウルは『魔法図鑑』や『ソウル図鑑』で確認することができる。 これら図鑑を埋めることもまた楽しみの一つだ。
まだ埋まってないところが収集欲を刺激する。
本作はあらゆる面でユーザーフレンドリーに徹しています。 一例をあげると、本作ではBボタンによるダッシュが可能で快適に歩き回ることができます。
NPCもダッシュを使う。
他には戦闘時をアニメもON・OFFを切り替えることもできるわ。 さくさくレベルを上げたいときはOFFにしておくとストレスがないわね。
さらには移動中にAボタンでやるべきことを教えてくれたり、次に行く場所を矢印アイコンで示してくれたりもする。 迷うことなくストーリーを進められるだろう。
行き先を忘れても大丈夫。
またセーブは町の中でしかできませんが、外では中断機能が使えます。 急に電源を切りたい時でも安心ですね。
でも中断はあくまで一時的な機能だし、同じデータでは1度しか再開できないから再開後はしっかりセーブに戻らなきゃダメよ。
キーレスポンスも良好で、とにかく不親切なところがないように設計されている。 これらの要素がもたらすテンポの良さは秀逸だ。 この時代にここまでサポート機能が充実したRPGは珍しい。
派手さはないけど緻密で、上手に整理された見やすいドット絵よね。 ゲームボーイの画面に最適化してと言えばいいのかしら、ちょうどいい見栄えだと思うわ。
サウンドは波形メモリ音源で製作されており、質の良い楽曲と高い音質が光る。
どの曲も素晴らしいですが、とりあえずフィールド曲は必聴ですね。 戦闘曲も転調が効いてて格好いいですよ(^^)
改めて本作の印象を一言で言い表すなら、非常に『丁寧に』作られているということに尽きる。 先ほどのシステム廻りもそうだが、ゲームバランスも良く練り込まれている。
本作のような一人旅のRPGでは主人公が1人で攻守両面を担うことになるため厳しい旅になることが多いのですが、本作ではあまりそのような印象は受けません。 それには基本的に主人公のパラメータが高めに設定されているということが要因でしょう。
レベルアップや装備の更新によるステータスの上がり幅が大きいため、難しいところに行きあたってもレベルをひとつふたつ上げるだけで劇的に楽になるんだ。
適正レベルの場所ではあえて浪費しない限りMPが尽きる前にレベルアップして全回復できるようになってるし、本当に苦しい場面は稀だわ。
その快適さゆえにクリアまでにかかるプレイ時間が短くなってしまう面もあるのだが、本編のボリューム不足を補うように宝の地図ダンジョンのような難しめのサブダンジョンがやり込み要素として用意されている。 ぜひ見つけて挑戦してもらいたい。
今さら言うまでもないが、本作は旧態依然の古臭いRPGなどではない。 むしろ操作のしやすさ、わかりやすさでは当時の先端を行っている。
ファミコン時代のRPGは難しいのが当たり前で、敵が強すぎて進めなくなったり謎解きが理不尽なくらい難しいことが往々にあったしね。 それがやりごたえにもつながっていたんだけど、クリアまで漕ぎ着けられないことも珍しくなかったわ(^^;)
改めて本作のキャッチコピーを見返すと、『ファミコンRPGファン要チェック』と書かれていても本作がファミコンのようなRPGだとは書かれていないんですよ。 これはむしろ、そうした挫折を経験した人たちに向けたコピーだったのではないか、とも思います。
だとしたら、家庭用RPGの原点に返ることがマイクロキャビンの思惑だったのではないかと思えてくる。 かつてファミコンで家庭用RPGの基礎を築いたドラゴンクエストのように、初めてRPGに触れる人へ向けた入門編のような役割を担おうとしたのではないか。
RPGに限らないけどゲームが進化するにつれてプレイヤーが覚えなきゃならないことがどんどん増えていたし、初心者にもハードルの低いもう少しシンプルなものを作りたかったのかもね。
本作の発売に際し、一部で言われていたことがあります。 当時は『ポケットモンスター』の大ヒットを受けて『収集・育成・対戦』がヒットの3大要素と言われるようになり、追随したフォロワーゲームが多数発売されていました。 本作はそのアンチテーゼを狙ったんだろうと。しかしそうではないんですよね。
仲間こそ増えないが本作にも魔法のペンダントやソウルの収集要素はあるからな。 そんな了見ではなく、シンプルに楽しめる王道路線を目指した結果このような仕上がりになったということなのだろう。
RPGってこういうものだったなーって素直に思える一作よ。 あの頃のRPGが好きな人も、そうじゃない人も楽しめると思うわ。 これも老舗の味かしらね。
初稿:2010年03月30日
改訂1:2020年08月1日
改訂2:2024年05月24日