アーケード版『ドンキーコング3』が稼働を開始したのは1983年後半のことだ。 過去作である『ドンキーコング』及び『ドンキーコングJR.』は既にヒット作として名を上げていたことから、新作の報はファンを大いに喜ばせた。
前作にあたる『ドンキーコングJR.』から約2年半後となるリリースでしたが、多くの注目を集めることができたのは同年の7月にファミコン用ソフトとして『ドンキーコング』及び『ドンキーコングJR.』が家庭向けに登場していたことも手伝ったことと思います。
左:ドンキーコング 右:ドンキーコングJR.
もっともファミコンはまだ登場したばかりで知名度がさほど高くない頃だったから、相乗効果がどれほどのものだったかはわからないわ。 それでもファミコン版でドンキーコングを知った人はいるでしょうから、そうした人たちへのアピール効果はあったはずよ。
ドンキーコングのシリーズはアスレチック的な楽しさのジャンプアクションや物語性を感じさせるステージ構成が当時としては画期的な特徴だったし、3作目ではそのあたりをどんな風に進化させてくるか楽しみだったのよ。
なにせ1作目の主役だったマリオが2作目では敵役になるなんていう驚きの配役がされていたからな。 続編と言えど面白くするためなら何をやって来るかわからない底知れなさを感じさせ、そのあたりも魅力のひとつだった。
そういう下地があったから次はもしかしていよいよドンキーコングが主役になったり?とか、もしそうなれば体格を活かしたパワー系のアクションが楽しめるかも?とか、色々と想像していたものだわ。
ファン各々で期待していた内容は万別だったでしょうけど、実際の完成形を正しく予想できた人は少なかったんじゃないかしら。 そう思えるほどに、私たちの前に顕現した『ドンキーコング3』は過去作から大きな変容を遂げていたわ。
なお今回は竜嘉 伯游さんのリクエストにより、アーケード版の翌年にリリースされたファミコン版を用いて紹介することにいたします(^^)
本作の主人公はシリーズ初登場となるスタンリー。 大きな鼻を持ち長袖シャツにオーバーオールという服装でどことなくマリオに似ているところもあるが、ヒゲは生えておらず若者らしさのある風貌のデザインだ。
アーケード版フライヤーより主人公のスタンリー。
一方、敵役にはシリーズの顔役であるドンキーコングが返り咲いているわ。 フラワーガーデンで暴れるドンキーコングを守るためにスタンリーが奮闘するというのが本作の筋書きよ。
ドンキーコング、頭上からの襲来。
スタンリーはスプレーを武器としています。 画面上方から降りてくるドンキーコングをスプレーで押し返すことができればステージクリアですが、逆に最下部まで押し切られるとミスになってしまいます。
スプレーの乱れ打ちを浴びせよう。
さりとてスタンリーの敵はドンキーコングだけじゃないの。 様々な害虫たちがスタンリーや花を狙って襲ってくるわ。
害虫から花を守りながらドンキーコングを撃退しなければならない。 目的が2つあるがゆえに、場の状況に応じてどちらを優先するか考えて対応する忙しさが本作のゲーム性の要であり面白さとなっている。
だけどこれがねー、楽しいんだけど難しさも相当なの。 スタンリーは害虫に触れるとワンミスになるんだけど、なにしろ害虫は数が多いし動きも複雑なのよ。 後のステージには槍を投げてくる種類や倒すと爆発して残骸で攻撃してくる種類も出てくるし、奮戦空しく花を奪われた時のやるせなさったらないわ…。
5つある花は半ばボーナスアイテムのような扱いであり、持ち去られてもミスにならないのは救いだ。 とは言え守り切った数に応じて得点が入るから5万点獲得の際に得られるエクステンドに影響するし、何より達成感が違うからできるなら守り切りたいところだ。
花を奪われても巣に持ち帰られるまでの間なら取り返すことが可能です。 最後まで諦めずに頑張りましょう(^^)
防衛戦ゆえに精神を擦り減らす攻防を強いられるスタンリーにもとっておきの秘策があるわ。 このパワースプレーは普通のスプレーよりも長射程高威力な優れ物よ。 効果時間は約15秒程でスタンリー1人につき一度しか使えない制限があるけれどそれだけに強力で、苦境を一挙に覆すカタルシスが味わえるわ。
通常スプレーでは倒せないクリーピーを倒すこともできる。
ですが強力であるがためにいつ使うかというところが悩みどころですね。 できるだけピンチの時に使いたいですが、簡単には使いたくないと抱え込んでいるうちにミスしてしまうこともしばしばです(^^;)
そんなことにならないように、使う場面をある程度決めておくといいかもね。 パワースプレーじゃないと倒せない敵がいるときに使うとか、ドンキーコングが目の前まで迫ってきたら使うとか。 私はいつも赤い葉っぱのステージで使っちゃうわ。ここは中央の足場が抜けていて移動が制限される難関だから(^^;)
効果時間の15秒はステージをまたいでも有効だから、どのタイミングで使っても無駄になりにくい。 ステージ開始直後に使って、花を全て残したままクリアしてボーナスを点をもらうのも手だろう。
しかし改めて過去作と見比べてみても、本作の存在というものは異色に映る。 まずジャンルがジャンプアクションからシューティングに変更されたことに端を発しているが、同じシリーズのナンバリング作品でジャンルが変わるということは当時さほど前例がなく、これには戸惑いの声もあったようだ。
ステージ構成は足場の形や植物の種類、出現する敵のパターンで変化をつけているものの過去作ほど個性に富んだものではなく、見た目が変わり映えしないステージが続くようになりました。
ストーリー性も薄くなっていて、ドンキーコングがどうしてフラワーガーデンに現れたのか、その後の結末がどうなったのかの説明は一切なされないままなのよ。
ジャンプアクション、ステージのバリエーションの多さ、ストーリー性。ドンキーコングシリーズの特徴だったこれらの要素が大きく変容していたものだから、本作は異色作と評価されるようになったのよ。
だが本作のルーツを辿ればその評価があながち間違いでないことがわかる。 そのルーツとは1982年に任天堂からリリースされたゲーム&ウォッチの『グリーンハウス』だ。
ニンテンド−DS用ソフト『GAME&WATCH COLLECTION』に収録されているものより撮影。
『グリーンハウス』は植物園を荒らす害虫たちを殺虫スプレーで撃退するゲームです。 これだけでも『ドンキーコング3』との共通性を見て取れますが、それに加えてなんと海外版では主人公の名前がスタンリーになっているんですね。
つまり『ドンキーコング3』の基本的な枠組みは『グリーンハウス』が由来だったわけね。 そう考えればドンキーコングらしさが薄いのは必然だったのよ。
だけど、だからと言って本作にドンキーコングが不要かと言われるとそんなことはないと思うわ。 ドンキーコングを撃退するっていう目的が加わったからリソースを考えて立ち回る面白さが生まれているし、何より巨体のモンスターが徐々に迫ってくるプレッシャーは圧倒的よ。
ドンキーコングの存在がゲーム性を高めているのは間違いなく、そういう意味ではドンキーコングの続編として『3』を冠したことも頷ける。 『グリーンハウス』と『ドンキーコング』のシナジーで生まれたのが『ドンキーコング3』の正体だったんだ。
ドンキーコングの続編としての一方の視点で見ればやや異色にも感じますが、固定画面シューティングとしての完成度は高いです。 過去にリリースしたゲームの特性をミックスして新しい面白さを生み出す任天堂の手法が見事に発揮された一例ですね。
初稿:2018年10月27日
改訂1:2024年07月12日