双葉社が刊行していたゲームブックシリーズのうち、特にファミコンに特化したレーベルがファミコン冒険ゲームブックである。
本レーベルは1986年から1992年にかけておおよそ80冊近くが発行されたそうです。 当時のゲームファンの子供たちは遊んだことがあるという人も多いのではないでしょうか。
もちろん私も買っていたわ。 バリエーション豊富な印象はあったけど、そんなにたくさん刊行されていたのね。
レーベルの立ち上げ時点で既にファミコンは子供たちの間で大ブームとなっていたが、高価なゲームソフトはなかなか買えるものではない。そこでゲームの雰囲気を味わうことのできるゲームブックはファミコンで遊びたい欲求の受け皿として機能したようじゃ。
ゲームソフトが1本数千円するのに対し、1冊300円から400円台で買えたからね。 面白いことはもとより懐に優しいのが何より有難かったわあ!
ファミコンのゲームブックは他社からも刊行されていましたが、このレーベルが大きな地位を得ることができたのは人気タイトルを多数取り揃えたことが要因だったと思います。
『スーパーマリオブラザーズ』、『グラディウス』、『ドラゴンクエスト』など名立たるビッグタイトルが並んでおったからな。安価な価格と豪華なラインナップで読者の支持を掴むことに成功したわけじゃの。
特徴的な青い背表紙が書店の一角を占める光景は今でも覚えているわ(^^)
さて、今回は本レーベルより『ゼルダの伝説 蜃気楼城の戦い』をテーマに紹介していこう。 ディスクシステムで人気を博したアクションアドベンチャーゲーム『ゼルダの伝説』の後日談を語った作品であるぞ。
本作は後日談ということで、ゲームクリア後の時系列で全く新しいストーリーが楽しめるようになっています。
他のメディア作品をゲームブック化するにあたってストーリーをどうするか、用いられる手法は大きく分類して3つのパターンがある。原作をそのままなぞるか、原作を下敷きにして新たな展開を描くか、あるいは大まかな設定だけ拝借してほぼ別物とするかじゃ。
その分類で言うと本作の場合は2つ目に近いですね。
でもさ、後日談形式だと原作をプレイしていない人にはストーリーがわかりにくいんじゃないかと思うのよね。 どうしてこんな手法を取るのかしら?
初期のファミコンゲームはあまり深いストーリーを描けるだけの容量はなかった。 ゼルダの伝説の場合、ストーリー部分だけ切り出すと世界中に散ったトライフォースの欠片を集めて大魔王ガノンを打倒し、捕らわれたゼルダ姫を救出する、というくらいの筋立てしかないからの。
そこにアクションや謎解きの体験が上乗せされて始めてゲーム体験となるわけですが、ゲームブックでは再現が難しいところです。原作をなぞる方向性では作りにくかったのではないでしょうか。
もちろん原作未体験者に向けた配慮はされておって、この原作のストーリーは本書内においてプロローグの約1ページに短く纏められておる。本編を読み進めるうえで必要となる前提の知識は十分得られるはずじゃ。
また、後日談形式にすることには明確なメリットがあります。既にゲームをプレイ済みのユーザーでも新鮮に物語を楽しめますからね。
そしてゲームを未体験の読者に対して原作のネタ晴らしを極力防ぐことができるという側面もある。 できることなら詳しいことは実際にゲームをプレイして知ってもらいたいからのう。
なるほどね、そう考えたらゲームソフトとゲームブック、お互いの立場を尊重した良い落としどころなのかもしれないわ。
では本作のストーリーに触れていこう。 リンクの活躍によって平和が訪れたハイラル地方だったが、それも長くは続かなかった。 闇の世界から新たな脅威、魔将軍(ゼネラル)ガイアが攻めて来たのじゃ。
大魔王ガノンの弟、魔将軍ガイア。
ガイアは原作で討伐した大魔王ガノンの弟です。 ガイアによってトライフォースは4つに分かたれて何処かに隠され、ハイラルは再び魔界と化してしまいました。
おまけにリンクとゼルダは呪いを掛けられてしまったの。 2人は日の出と日没を境に代わる代わるクリスタルムーンと呼ばれる水晶球に閉じ込められてしまうのよ。
昼にはゼルダが、夜にはリンクが封印されてしまいお互いは話すことも触れあうこともできぬ。 この物語では原作での苦難を経たことで2人は恋仲となっているのじゃが、こんな形で引き剥がすとはなかなか陰湿じゃのう。
呪いを解いてガイアの魔手からハイラルを取り戻すため、リンクとゼルダの新たな冒険が始まります。
ガイアは蜃気楼城(ミラージュ・キャッスル)に居を構えておる。 すぐさま向かいたいところだが、しかし蜃気楼城は忽然と現れては消える幻の城じゃ。 まずは到達手段を見つけねばならん。
本作は2部構成になっていて、前半は蜃気楼城の情報とトライフォースを求めてハイラルを冒険し、後半は蜃気楼城を探索してガイアの打倒を目指します。
前半部は10日の時間制限があるから、無暗に行動してたらは時間切れになってしまうわ。 必要な情報を取り漏らさないように気を付けないとね。
本作の旅の仲間。リンク、ゼルダ、ファニー。
時間制限の話があったが、本作では特定の場面で昼夜が切り替わるようになっておる。 その際呪いの効果によりリンクとゼルダは入れ替わり、交互に冒険を進めていくことになる。 つまりW主人公制を敷いているわけじゃ。
リンクとゼルダは同時に入れ替わるため、連絡役として陽気な妖精のファニーも同行してくれています。
リンクだけじゃなくゼルダとも旅をできるなんて新鮮よね。 剣や弓もしっかり扱えちゃうし、助けを待つ側だった原作でのイメージがひっくり返ったわ。
原作では強敵だったライネルと一騎討ちするシーンもあり、凛々しくて行動的なイメージが付きましたね。
ゼルダVSライネル。
呪いによって男女が昼夜に入れ替わるという設定は著者曰く当時上映されていたアメリカ映画『レディホーク』の影響を強く受けているようじゃが、ゲームブックで実践したというのは実験的で斬新じゃな。
ゼルダの話ばかりしちゃったけど、リンクも後半にたくさん見せ場があるからリンクファンも安心ね。 挿絵も惚れ惚れしちゃうくらい格好いいんだから。
本作は評判が良く、短期間で版を重ねることとなった。 原作のネームバリューもあるが、単純にゲームブックとしてのクオリティが高かったことが要因として大きいじゃろう。
原作から直接の続きの物語だったり、主人公がリンク1人だけじゃなくゼルダとの交替制だったり、聞いただけで面白そうだもの。読んでみたくなっちゃうわ。
そうした独自性も奇抜なだけではなく、しっかり活かした物語の組み立てがされていることが高評価に繋がったのでしょうね。
ゼルダの伝説というシリーズはストーリーよりもゲームシステムの面白さに重きを置く傾向があるが、本作もまたその精神に則した作品になっておるな。
初稿:2024年06月01日
改訂1:2024年06月08日