ファミマガの100号到達を祝した金色の塗装。
1985年に創刊した日本初のファミコン専門情報誌である『ファミマガ』こと『ファミリーコンピュータMagazine』は順調に発行部数を伸ばし、1990年の第7号をもって通算100号を迎えるに至る。
100号という記念の節目を祝し、誌面では3つの企画が大々的に打ち出されました。
1つめがディスクシステム用ソフト『香港』の発売、2つめがファミマガディスク大賞の開催、そして3つめがコナミと共同でRPGを製作する『芸夢工房』よ。
読者への感謝を込めた3つのスペシャル企画。
『香港』は以前に紹介したことがあったわね。 姉妹紙の『MSX・FAN』に掲載された投稿作品のプログラムをディスクシステムに移植したものよ。 麻雀牌を使った変わり種のパズルゲームだったわ。
『香港』は積まれた麻雀牌を決められた順序で消していくパズル。
その『香港』をVol.1に、また同じくMSX・FANの投稿作品から選ばれた『パニックスペース』という作品をVol.2として始まったファミマガ発のディスクシステム向けのシリーズが『ファミマガディスク』だ。
そしてVol.3以降にリリースする作品のアイディアを読者に求めたのがファミマガディスク大賞というわけです。 自分の考えたゲームが市販されるかもしれないと思うと胸が躍りますよね(^^)
募集はコンテスト形式で行われたわ。 大賞の特典は賞金50万円と記念品、さらにそのアイディアが実際にゲーム化されて売上本数に応じた印税ももらえるという豪華なもので、応募総数は6,172通を数える盛況ぶりだったのよ。
しかし数こそ多く寄せられたものの、その質に関してはやや冴えない印象も少なからず残った。 募集していたアイディアはあくまでオリジナルゲームのシステムだったのだが、紙面で紹介されたものを読む限りでは既存のゲームの流用が多かったようだ。
『純粋にゲームのシステムを募集するものでRPGのシナリオを募集するものではない』ってしっかり書かれていたんだけど、それなのにRPG用のシナリオが多数届いたりしたみたいね。 まあそれは論外としても、そもそもが難しいオーダーだと思うけど。
『ディスクシステムで実現可能な』という条項も低年齢層向けのファミマガでは理解されにくかったのではないかと思います。 実際の開発環境やプログラムがわからないと技術的に可能かどうかを判断するのは難しいですからね。
とはいえこれだけ投稿があれば中には光るアイディアも見られたようで、最終的には『クロックス』と『オール1』の2作品が大賞に輝いた。 それらは無事にゲーム化され、ファミマガディスク第3弾及び第4弾としてリリースされる運びとなる。
この盛況を受けてか、約半年後には第2回ファミマガディスク大賞の開催が決まったわ。 前回の反省を踏まえて実現可能性の高い作品が集まるように募集要項を改めたのだけれど、生憎とこの試みはあまりいい方向に作用しなかったようね。
今度は実現可能性を重視した結果、スケールが小さくまとまったアイディアばかりが集まってしまったみたいね。 応募総数は3,427通を数えたけれど、大賞作品なしという残念な結果になってしまったわ。
本来であれば第2回ファミマガディスク大賞の大賞作品がファミマガディスク第5弾としてリリースされる予定だったのですが、 その目論見が外れてしまったことにより第5弾のポジションはとある企業が手掛ける作品が担うことになりました。
その手掛けた企業というのはコンパイル、そして作品の名は『ぷよぷよ』だ。 現代まで30年以上続く人気シリーズの初代作である。
当時はテトリスがヒットした影響で落ちものパズルゲームがブームとなっていた時代よ。 本作もその潮流に乗ってリリースされた作品のひとつだけれど、テトリスを参考にする一方で敢えて真逆のコンセプトを取ることを選んだわ。
テトリスのブロックは四角くて固いソリッドなイメージがありますが、ぷよぷよは柔らかくてぼよよんんとしたソフトなキャラクターです。 この発想の転換がゲームの根幹を大きく決定づけることになりました。
同じ色のぷよぷよを4匹繋げると…?
ぷよぷよは2匹が一組となりフィールド内を落下する。 悩み事などなさそうな顔をしている彼らだが、同じ色が4匹繋がると消滅してしまう悲しき特性を持っているんだ。
そう聞くと消すのが可哀想になるからやめてくれない?(´Д`;)
消えずに残ったぷよは重力に任せて落下します。 その結果再び同じ色のぷよが4匹以上くっつくと改めて消滅することとなり、この作用を連鎖消しといいます。 連鎖した数に応じて得点に倍率がかかるボーナスがあるので出来るだけ狙っていきたい現象ですね。
一度の操作でぷよぷよが連鎖的に消えていく。
重力に任せてちぎれて落ちる、というシステムは固いブロックを採用していたら思いつけるものではないわ。 ソフトなキャラであるぷよぷよを起用したからこそ、このような斬新なルールに仕上がったのね。
次々と連続で消えていく様子を見るのは気持いいし、連鎖は上手い発明だったと思うわよ(^^)
連鎖を狙うためには適度に頭を使うのでプレイ後には心地いい疲労感が残ります。 この高揚感が持続するところが本作が面白さの所以ですね(^^)
本作のゲームモードは全部で3つある。 1人用のエンドレスとミッション、そして2人用の対戦だ。
エンドレスは言葉の通り、ゲームオーバーになるまで終わりなく続けられるモードです。 特に決められた目的はなく、ハイスコア狙いや連鎖消しの練習をしたり好きなように楽しむことができます。
ミッションは『7匹同時に消せ』とか『7連鎖しろ』とかのお題を達成する面クリア方式となっているわ。 後の『なぞぷよ』シリーズに引き継がれた要素ね。全部で52面のステージが用意されているわ
様々なお題に挑戦しよう。
一方で『なぞぷよ』とは違うところもあるわ。 なぞぷよでは落下するぷよぷよの順序と個数が決まっているけれど、本作のミッションではランダムかつ無限に降ってくるの。
ランダム性が強いゆえにアドリブ的な対処も求められるためプレイ感覚は『なぞぷよ』に似て非なるものとなっているんだよな。
極端なことを言うと、初期配置のぷよを消してしまってから自分の思うように組み上げてお題を達成しても構わないわけです。 模範回答は用意されていますが、どのように解くかはプレイヤーに委ねられています。
問題設計の詰めが甘いとも言えるけど、強引にでも突破できる抜け道があるっていうのは嫌いじゃないわ。 遊びに幅が出るしね。
対戦モードでは左右のフィールドに分かれてぷよを消し合うわ。 同時にたくさん消したり消したぷよの数や連鎖消しの倍率に応じて出現する『白ぷよ』を相手側に降らせあいながら、先に左から3列目が上まで埋まった方が負けになるルールよ。
連鎖により送り込まれる白ぷよ。
白ぷよは後のシリーズで言う『おじゃまぷよ』のことだ。 白とは言うが実際は色が無く透明となっており、これを消すには白ぷよに隣接した通常の色付きぷよを消さなければならない。
白ぷよは4匹繋がっても消えないし、消しても相手に送り込めるわけじゃないから、本当に邪魔なだけなのよね。 送ってこられるとせっかく組み上げた連鎖のタネが崩されちゃうから速攻戦術が望ましいわ。やられるまえにやっちゃうことが最良よ。
とは言え一度の連鎖で送り込める白ぷよの数は30匹までという制限があるので、大きすぎる連鎖を作ってもあまり意味はありません。 中くらいの連鎖を連続で組み上げることを意識するといいでしょう。実力が同じくらいの人同士だと特に白熱しますね。
実力差がある相手とプレイするのなら、ハンディキャップを付けてみるといいわ。 ゲーム開始時に設定する必要のある『LEVEL』は1〜4までの4段階があるんだけど数字が大きいほど難しくて、ぷよの落下スピードが速くなったり、ぷよの色の種類が増えたりする違いがあるのよ。
対戦の面白さはパズルゲームでも屈指だろうな。 しかし両者に降るぷよぷよの組み合わせが同じではなくランダムであるため、展開に運が絡むことから純粋な対戦ツールとしては難点だと捉えたプレイヤーもいたようだ。
突き詰めたら速攻を決めた方が勝つルールだから、実力とは関係なく優劣が付いてしまいかねない点が気になったのね。 この点は後のシリーズで仕様が変更されて、両方のプレイヤーに対し必ず同じ順番で同じ組み合わせのぷよが降ってくるようになるわ。
本作のファジーなところもこれはこれで実力差を埋める要因になっていたので、個人的には悪くないと思うんですけどね。
競技性を高めていくと公平さが重要視されるようになるから、そのような対応も理解はできるけどな。 設定で両方選べるようにしてくれたらなお良かったと思うが、そこまでは求め過ぎか。
もうひとつ、本作と後のシリーズ作品とでは決定的に大きな違いがあるわ。 本作のぷよは白ぷよを除いて6色が登場するの。
緑・赤・黄・灰色・黄緑・青の6色だな。
後の作品では4色あるいは5色となっています。 基本的には5色で、4色は難易度が低い練習モードに使われていることが多いようですね。
色数が多いと連鎖を組むのが大変なのよね。 相対的にそのとき求めている色が出にくくなっちゃうから。
本作は開発時間があまり取れなかったようで、そのためにゲームバランスを深く練り込めなかったのかもしれない。 だがそう感じるのは後のシリーズと比較するからであり、本作だけをプレイしている限りではさほど気になるものではないだろう。
LEVELを下げれば4色、5色でプレイすることもできるからね。 だから6色でプレイできることは本作ならでこその特色になっていると言えるわ。
本作はディスクシステムとMSXで展開されましたが、リリースしたタイミングにおいては既にややマイナーな機種となっていたこともあり知名度はプレイ人口はさほど伸びませんでした。 しかし対戦の面白さが評価されたことで次回作へと繋がっていくことになります。
ぷよぷよが対戦ゲームとして大きく認知されるのは次回作のアーケード版からだものね。
以降のシリーズは対戦システムが強化された本流の『ぷよぷよ』と面クリア式のパズルに特化した『なぞぷよ』に枝分かれすることとなるが、源流となった本作ディスクシステム版およびMSX版は後に『プロトタイプぷよ』と呼称されるようになる。
次に本作が制作された経緯について少し話してみたいと思います。
『ぷよぷよ』というキャラクター自体は元々コンパイルの製作したRPG『魔導物語』に出てくる敵モンスターなのよね。
それがなぜ新作パズルゲームのキャラクターに抜擢されたかと言うと紆余曲折がある。 そもそも最初にコンパイルは『どーみのす』というドミノあるいはサイコロを使った落ちものパズルゲームを作ろうとしていたのだが、それがさして面白くないということで作り直すことにしたんだ。
作り直しにあたってテトリスを意識しつつもテトリスから脱却することを目指した結果、ゲームのコンセプトをソフト(柔らか)に求めたことで柔らかさを表現するキャラクターが必要となりました。
そこで『ぷよぷよ』に白羽の矢が立ったわけね。 スケジュールの都合で専属のグラフィッカーが確保できない事情もあって、既存のゲームである魔導物語のキャラクターを流用することにしたそうよ。
魔導物語のぷよぷよとはドットサイズが違うため描き直されてはいるが、それでも新たなキャラクターを作るよりは早く済むからな。 この判断は功を奏し、さらに魔導物語の世界観を取り込んだことが次回作以降の発展を遂げる上で大いに助けとなった。
どーみのすがもっと面白かったら、あるいはグラフィッカーの手が空いていたらがいたらぷよぷよというゲームは生まれなかったかもしれないのね。 ヒット作がこういう経緯で生まれたっていうのはなんだか凄い話だわ。
このお蔵入りとなったどーみのすですが、なんと2017年になって復活を果たします。 当時コンパイルの社長だった仁井谷正充さんが倉庫から当時のデータを発見し、Windows向けに少し手直ししたうえで『どみのん』というタイトルに変更しリリースに至っています。
『どみのん』は2つ1組のサイコロを落とし、数字を足して7になると消える落ちものパズル。
プロジェクトEGGによる限定的な配信となるが、このニュースには驚かされた。 元来は没作品であるし未完成品のためバグが残っている資料的な価値はある。興味があればプレイしてルーツを探ってみるのも面白いだろう。
最後に余談になるが、再びファミマガディスク大賞を振り返ってみよう。 ぷよぷよの誕生経緯を知ると、この企画が振るわなかった理由が改めて見えてくる。
やっぱりゲームは作りながら手直していくものだって言うことよね。
コンピューターゲームに限らないけれど、完成度を高めるうえでテストプレイとフィードバックは不可欠よ。 いくら斬新なアイディアを考えても実際に作ってみたらあまり面白くなかったということは開発の現場ではしばしばあるわ。
そのようなときは原因を分析してアイディアを足したり、時には一から考えなおしたり、改善を繰り返すことでどんどん磨き上げていくものなのですが、 この募集形式ではそれができないかったんですね。
大賞に至らなかった数々の入選作品を見ても面白そうなアイディアはたくさんあった。 どれも実現可能性の低さや構成が詰め切れていないことを指摘されていたが、この評価を受けて改良を施す機会があれば化けたものもあるかもしれない。 ぷよぷよの成功を見るとそんなことを考えてしまう。
初稿:2022年07月28日
改訂1:2025年06月05日