眠り薬と赤い水

ポパイの英語遊びファミリーコンピュータ|ゲームレビュー

パッケージ表

パッケージ裏

ROMカセット

タイトル画面

学習・教育ソフト

水梨ハクア

コンピュータと教育・学習の相性には早くから注目されてきました。 工場がオートメーション化で生産性を大きく向上させたように、教育においてもコンピュータを用いれば多くの人々に高度な学習機会を提供できると考えられたわけですね。

ピータン

かつては軍隊や大学で研究開発及び利用が促進されており限られた一部の人しか使うことができなかったが、 コンピュータ技術の発展が進むにつれ徐々に一般も普及していったんだ。

律文堂よもぎ

そのような歴史を鑑みれば、少し時代が下る1983年に任天堂よりファミリーコンピュータがセガ・エンタープライゼスよりSG-1000がリリースされた際、早々に学習用ソフトの投入について考慮されたのは当然の道理であろう。

野々原みずたき

ファミコンとSG-1000はどちらも初年度に教育ソフトをリリースしているんだよね。

<ファミリーコンピュータ>
<SG-1000>
ピータン

ファミコンはポパイやドンキーコングといった人気キャラクターを使ってゲームしながら学べること、 SG-1000はゲーム形式を取り入れながら文部省の学習指導要領に沿って学べることが特徴だ。

律文堂よもぎ

ラインナップに2社のスタイルの違いが出ておるのう。 学校教育の観点ではタイトル数も多く学習指導要領を取り入れたSG-1000の方がより本格的だと言えるが、比較するのであれば留意すべき点もある。

野々原みずたき

SG-1000の教育ソフトはセガがSG-1000と同日に発売したパソコン『SC-3000』と共用なんだよね。 SG-1000でプレイする場合は専用のキーボードが必要になるし、家庭用とパソコンの中間のような位置付けだったかなと思うよ。

水梨ハクア

そうしたセガ側の取り組みも興味深いのですが、今回は家庭用に特化したファミコンの方に焦点を当てて『ポパイの英語遊び』を例に取り任天堂の狙いを振り返ってみたいと思います。

WORD PUZZLE A

水梨ハクア

本作には500の英単語がプログラムされています。 ゲームモードは3つ用意されているので順番に紹介してきましょう。 まずは『WORD PUZZLE A』についてです。

ピータン

500の単語は6つにジャンル分けされており、ゲーム開始前にどれかひとつを選ぶ形式となっている。 詳しくは付属している単語帳を見るといい。

6つのジャンルから一つを選ぼう。

律文堂よもぎ

『ANIMAL』(動物)、『COUNTRY』(国名)、『FOOD』(飲食物)、『SPORTS』(スポーツ)、『SCIENCE』(科学)、『OTHERS』(その他)の6ジャンルじゃな。

野々原みずたき

このゲームで扱っているのは単語だけなんだね。 まずは英語を知らない子供たち向けに語彙を覚えてもらおうっていうことなのかな。

水梨ハクア

ジャンル分けしているのも覚えやすくするための一助でしょう。 記憶するためにはイメージを紐づけることが大事ですからね。

ピータン

オリーブが出題する英単語のスペルを完成させるため、必要となるアルファベットを選択して集めよう。 なお選択する順番は問わない。最終的に全てのアルファベットが揃いさえすればどんな順番で取ってもいいんだ。

ネコは英語でなんと言う?3文字で答えよう。

野々原みずたき

それなんだけど、スペルの順番通りに取らなくてもいいのはゲーム的にはやりやすいと思うんだけど、それでちゃんと学習になるのかな?

水梨ハクア

文字数が何文字なのか、何文字目にどの文字が入るのかを気にしながらプレイすることになるので十分に学習効果はありますよ。 まずは形で覚えることも重要なんです。私たちもひらがな50音を順番に覚えたわけではないでしょう?

律文堂よもぎ

例えば『CAT』であれば3文字であるとか、真ん中の文字がAであるとか、最後の文字がTであるとか、そういうところからでも覚えられれば学習のステップは登れている。 敢えて反対側から選んでみたり、何かプレイヤー側で工夫を加えると学習効果が高くなることは研究でも証明されておる。

ピータン

一つの単語に同じアルファベットが複数入ってる場合、一度選べは該当箇所が全部埋まるのもポイントだ。 複数箇所が同時に埋まるのはゲーム的にちょっとしたボーナス感覚もあり、印象的にも残りやすいだろう。

ツバメは英語で『SWALLOW』。『L』を選ぶと2か所が同時に埋まった。

WORD PUZZLE B

律文堂よもぎ

次なるモード『WORD PUZZLE B』は先程のモードAと見た目はほぼ変わりない。 じゃが決定的に違うところがあり、日本語のヒントが何も出ないのじゃ。

白枠の数(文字数)と勘を頼りに。

野々原みずたき

文字数だけがヒントってことだよね?(^^;)それって無理があるんじゃない? 同じ文字数の単語はたくさんあるし、いくら単語帳があるとはいえ総当たりになっちゃうよね。

水梨ハクア

一見すると乱暴にも思えるルールなのですが、これは英語圏で遊ばれる伝統的なゲーム『ハングマン』が元になっています。 英語圏の人なら『ETAOIN SHRDLU』を用いて解きますが、英語に全く馴染みがないと序盤は運になってしまいますね。

野々原みずたき

『エタオイン・シュラドゥル』って?

ピータン

『ETAOIN SHRDLU』(エタオイン・シュラドゥル)とは英語で最もよく使われるとされる12文字を並べた言葉だ。 故にハングマンはこれらの文字を優先的に使えば解きやすいと言われているんだ。

律文堂よもぎ

このモードはやや上級者をターゲットにしている節があるな。 このゲームを主にプレイするであろう子供たちには厳しいところもあるが、9回までは間違えても大丈夫じゃからミスを怖がらずにどんどん選んでいくといい。

野々原みずたき

ちょっと難しいけれど、英語圏の文化にそうと知らず触れられるのは面白いね。 このゲームをプレイした子供たちが後に『ハングマン』を知って、このゲームのことを思い出すのかもしれないね(^^)

WORD CATCHER

ピータン

最後の『WORD CATCHER』は2人対戦用のゲームモードだ。 オリーブが投げるアルファベットをキャッチして左に表示されている英単語を完成させよう。 先に5つ完成させたほうが勝者となる。

ポパイVSブルート、宿命の対決。

野々原みずたき

このモードはジャンル分けがないんだね。 色んな単語が入り乱れて、単語帳片手にプレイするのは大変そうかも。

水梨ハクア

このモードでは4文字以内の単語しか出題されないので、出題される単語はそんなに多いわけではありません。 しかし他のモードと違い、スペルの順にアルファベットを取らなきゃいけないんです。

律文堂よもぎ

オリーブは短いスパンでアルファベットをどんどん放り投げてくるが、 順番を間違えて取ってしまうとそれまでに取ったアルファベットはリセットされて一から集め直しとなる。

ピータン

不要な文字は避けなければいけないし、欲しい文字が出ても他の文字と重なっしまい取りに行けない事態もよく発生する。 基本的には避けるゲームなんだと理解すれば駆け引きも生まれて面白くなってくるが、そのためプレイ時間が長くなりやすいな。

野々原みずたき

単純に単語を知っていれば勝てるようなゲームじゃ面白くないから、学力の差を埋めるファクターを作りたかったのかもしれないね。 もちろん単語を知っていれば有利に違いないから、学ぶ意義も軽視してないあたり考えられてるよ。

単語帳

水梨ハクア

コンピュータを買った学習は同じ内容を繰り返して学ぶことで知識を定着させる反復学習に向いています。 反復学習は計算や漢字、英単語、地図記号などを覚えるのに適した学習方法ですが、飽きずに繰り返しを続ける事が難しいんですね。

ピータン

そこでゲームを組み合わせるんだ。 繰り返しが苦にならないように楽しく学ぶための工夫を施してな。

野々原みずたき

ゲームの上達がモチベーションになって、そのうえ学力も向上させられるとなおいいよね。

律文堂よもぎ

じゃが、本作には難点もある。単語帳が使いにくいのじゃ。 本作に付属する単語帳はスペルと日本語の意味は書かれておるが、肝心の読み方が書かれていないのじゃよ。

野々原みずたき

あー、それは確かにそうだね。 読み方がわからないと覚えにくいし、実用性にも欠けちゃうよ。これはもったいないポイントだね。

水梨ハクア

問題点と言えばもうひとつありますね。 紙質の問題で経年劣化が進みやすいようで、破れたり分解したりして徐々に失くしてしまう人が多かったんです。

ピータン

現に、世の中に出回っている中古品は単語帳が欠品してることが多いんだよな。 子供が取り扱う物でもあるし耐久性には気を遣って欲しかったところだ。

律文堂よもぎ

まあしかしこうしたゲームが登場したごく初期のことじゃからな。 考慮が及ばない面があっても仕方ないじゃろう。

水梨ハクア

より深く学ぶために『WORD PUZZLE A』を何度もプレイして自分だけの単語帳を作ってみてもいいでしょう。 手元には英和辞典や和英辞典があるとなおいいですね。

野々原みずたき

そこまでするかはその人しだいだろうけど、ゲームの上達がモチベーションになって学力が向上できるといいよね。

ファミリー向けのアピール

水梨ハクア

最後に改めて、任天堂が自社初となるカートリッジ交換式のハードウェア『ファミリーコンピュータ』を世に送り出したのは1983年7月15日のことでした。 この年のソフトラインナップを並べてみて何か気が付いたことはあるでしょうか?

野々原みずたき

この年のソフトは全て発売元が任天堂なんだよね。 そもそも当初はサードパーティの参入を想定してなくて、任天堂以外でゲームソフトを発売したのは1984年7月のハドソンが最初と聞いたよ。

律文堂よもぎ

そうじゃな、ファミコンの性能と売れ行きを見た他社がこぞって参入しファミコンは一大産業に成長していくことになる。

ピータン

そのことは任天堂の想定を超える出来事だったが、 まだそうなる前の1983年のラインナップを改めて見ると当時の任天堂の戦略が見えてくるだろう。

水梨ハクア

どのタイトルが誰をターゲットにしていたかを考えてみましょうか。 まずローンチの3作品および『スーパーマリオブラザーズ』はアーケード作品の移植でしたね。

野々原みずたき

ゲームセンターと遜色のないゲームが家庭で遊べるということでアーケードゲーマーや子供たちに訴求したよね。 ベースボールは当時一番人気で誰もが知っているスポーツだし、連珠や麻雀は定番の遊戯だったし。

律文堂よもぎ

連珠は簡単なルールで子供から大人まで遊べるが、麻雀は特に大人の男性に受けたようじゃな。

ピータン

こうして考えると、作品ごとに明確に家族の誰かをターゲットにしていることがわかる。 ファミリーコンピュータの名付けは伊達じゃないというわけだ。

水梨ハクア

残る2本、算数遊びと英語遊びは初等教育を始めたくらいの子供たちに向けつつも、購買層としての狙いはそのご両親に向いていました。

律文堂よもぎ

ファミコンは当時の価格が1万5千円でありコンピュータとしては破格の安さじゃが、当時の平均給与から見ると決して簡単に買えるものではない。 子供たちのお小遣いでは到底手が届かなかったじゃろう。

野々原みずたき

親から見てもただの遊び道具が1万5千円もするんじゃ子供に買い与える気にはあまりならないだろうけど、勉強にも使えると言えば印象は変わるよね。 子供たちからしてもファミコンを手に入れるいい説得材料になってたのかもね。

ピータン

事実そういったエピソードは幾つもある。 任天堂は社歴も長く、高価なものを子供に与えるためにはまず親の理解を得る必要があることを理解していたのだろう。 家庭に入り込んで根差すことを第一にしていたというのがよくわかる話だ。

水梨ハクア

このように潜んでいた需要を見つけ出し、それに沿った製品を生み出すのは任天堂が得意としているところです。 教育用ソフトとしてはまだ物足りなさも感じてしまうのですが、興味を持つための導入としては良いですし ファミコンの印象を良くする役目も十分果たせていたと思いますよ。

初稿:2019年08月11日

改訂1:2025年11月30日

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