ファミコンにリアルタイムで触れていた人の記憶に『ケムコ』の名は強く刻まれているのではないだろうか。 大ヒットと呼べるような作品はないのだが、個性の強い印象的なゲームを多くリリースしていたブランドだ。
ケムコブランドを擁していたのは広島県の企業『コトブキシステム』よ。 母体である『コトブキ技研工業株式会社』の英語名、『Kotobuki Engineering & Manufacturing Co., Ltd.』を略してKEMCOと名付けられているわ。
1984年に会社を設立してまもなくファミコンに参入しています。 会社の規模は小さいのですが多作で知られており、ファミコン向け(ディスクシステム含む)に計22作品をリリースしました。
オリジナル作品も制作していますが、とりわけ海外の作品の移植が多いのが特徴ですわ。 既に実績のある作品の版権を買ってきて移植する、商売としての手堅さも見えますわね。
さて、そんなケムコのファミコン参入初タイトルも海外のゲームの移植となっているわ。 その作品の名は『ダウ・ボーイ』、原作はアメリカのSynapse Software社がパソコンのVIC-20およびコモドール64向けにリリースしていた『Dough boy』よ。
ダウ・ボーイはアメリカ軍の歩兵を指す言葉なの。 『Dough』はパンやピザ等の小麦粉で出来た生地のことを言うのだけど、なぜ歩兵のことをダウ・ボーイと呼ぶようになったのか、由来については諸説あるわ。
戦争中の兵士たちがパン生地や食べ物を運ぶ仕事をしていたからとも、 乾燥地帯を行軍していた歩兵の顔が白い粉塵にまみれ生地のように見えたからとも言われていますわね。 主に第一次世界大戦時における歩兵の俗称として用いられていたようですわ。
だから原作の方のボックスアートに描かれた兵士は第一次世界大戦時の軍服を着ているのよね。 一方でファミコンのケムコ版は第二次世界大戦時に用いられた迷彩服が描かれているわ。 これもローカライズのひとつよね。
アメリカではダウ・ボーイ=アメリカ軍の歩兵というイメージが定着していますが 日本では馴染みのない言葉であることから、ボックスアートを見てアメリカ軍が主役のゲームだと一目でわかるよう当時使用されていた迷彩服のデザインを採用したのでしょう。
第二次世界大戦時の頃にはダウ・ボーイよりもG.Iという呼称がポピュラーになっているのだが、見た目でのわかりやすさを重視したのだろうな。
ということで本作は歩兵の戦場での活躍を描いたアクションゲームとなっているわ。 守りの堅い敵陣に単身で潜入工作を仕掛け、捕虜収容所に捕われた要人を救出することが目的よ。

MAP1の全景。






MAP1では後の攻略に用いる物資を調達します。 時間制限を受けながら敵兵の銃撃を掻い潜らなければならない、スリルのあるミッションとなっていますわ。
このMAPのクリア条件はマップの右端まで到達して鍵を拾うことです。 他のアイテムは取らなくても次のMAPに進むことはできますが、取り逃すと後のMAPで困るアイテムもあるので注意しましょう。
必需品となるのは梯子とTNTだ。 これらを獲得し損ねると必要となるMAPで立往生してしまう。 他のアイテムも消耗品なので出来るだけ拾っておくといいだろう。
ダウ・ボーイの武器はマシンガンよ。 方向キーを押しながらAボタンで弾を放つことができるわ。 8方向に向けて撃つことが出来るけど、マシンガンと言うわりに単発ずつの射撃しかできないから過信は禁物ね。

掃討力の低いマシンガン。
だけどマシンガンが使いにくいのは敵も同じことよ。 実は敵兵は体当たりでも倒すことができるから、隙を見て接近戦に持ち込めば有利に立ち回れるわ。 状況によってどう戦うかを見極めましょう。

やられた兵士は煙と化して消える。

MAP2の全景。
MAP2では渡河作戦を決行します。 MAP1で回収した物資を利用して河川を渡り、鍵を回収しましょう。川に落ちると即死してしまうので、川辺での移動には十分注意してくださいね。

灯台を破壊して橋の代わりにせよ。
灯台を破壊して橋代わりにして対岸へ渡ろう。 灯台の近くでAボタンを長押しして『ピッ』という電子音がしたらそのまま移動。 するとTNTを仕掛けて導火線を引くので、その状態でボタンを離すと引火し、爆発し灯台が倒れるという寸法だ。
爆風に接近しすぎると巻き込まれてミスになってしまうので、離隔距離はきちんと確保しましょうね。
こんな大掛かりな破壊工作を敵が黙って見ているはずはなくて、川面から軍艦の銃撃が襲ってくるわ。 あちこちに生えている樹木を盾にしながらゴール地点の鍵を回収しましょう。

樹木を盾にして。

MAP3の全景。
MAP3は鍵を拾ってマップの右端まで行けばクリアよ。 鍵はそこらじゅうに配置されたドラム缶のどれかに隠されているわ。
その前に、このステージはまず鉄条網を破ることから始まります。 クリッパーとTNTを使う方法がありますが、クリッパーを使用する場合は鉄条網に向けて十字キーを入れながらBボタンをゆっくり2回以上押しましょう。

クリッパーは持ってきたか?
このMAPの敵には生身の兵士だけでなく戦車も登場しますわ。 戦車に有効な武器は地雷で、TNTと同じようにAボタンを長押しして『ピッ』という電子音が鳴ってからボタンを放せば足元に設置されますわよ。
対戦車地雷を仕掛けろ。
鍵はドラム缶の下にあるが、どうやらなかなか出にくい設定なっているらしくTNTの消費が増えてしまう。 この後のMAPでも使うため残数には注意しておこう。

ドラム缶もTNTで爆破だ。

MAP4の全景。
MAP4は目の前に立ち塞がる防護壁を乗り越えてマップ右端の鍵を獲得するミッションよ。

ここまで担いできた梯子がようやく役に立つ。
この壁はTNTでも破壊することはできません。 赤い壁に隣接したままBボタンを長押しすると梯子が掛かるので、これを渡っていくことになりますわ。
渡り終えた後は梯子の傍でBボタンを押すと回収できるわ。 回収してまた次の壁に掛けてを繰り返して突破しましょう。

このマップ最後の関門。
鍵の傍には再び戦車が現れますが、ここは狭いので無理に破壊しようとせず鍵から離れた隙を狙って通り抜けるといいです。 また、戦車の銃弾は壁を貫通するので気をつけてください。

忍び込むには絶好の夜。
いよいよ最終ステージのMAP5だ。ファイナルミッションである要人の救出は宵闇に紛れて決行することとなる。

普段は見えないマップの全貌。
夜は隠密行動をするには絶好の時間・・・。 とは言え、何も見えないんじゃどうしようもないわね。 TNTを発破させれば一瞬だけ画面がフラッシュして地形が見えるようになるから、マップを覚えてしまいましょう。

比較的安全な突入ルートはここだ。
マップを見てもらえればわかると思うけれど、スタート地点からすぐのところに地雷原が広がっているわ。 正しいルートは矢印で示した通りだけど、見た目ほど簡単な道程ではないわね。
暗闇の中縦横無尽に張り巡らされた地雷を避けるだけでなく、要人を救出したら同じルートを通ってスタート地点まで連れ帰らないといけません。 ファイナルミッションだけあって困難な仕掛けですわ。
実は、もっと楽にこの任務を達成する方法があるんです…。 それがこちらのルートです、マップ左上からほぼ一直線に抜ける最短のルートなのですが…。

最短の突入ルートはここだ。
最短なのは間違いないけど…このルートは地雷の上を通過しちゃってるのよね(´Д`;)
そう、もう一つの方法とはわざと一人のダウ・ボーイに地雷を踏ませて爆破し、その犠牲と引き換えに安全な道を切り開くことだ。 1人の犠牲も出さずにすむかもしれないが多くの人員を危険に晒すルートと確実に1人の犠牲を出すがそれ以降は安全に進めるルート。 どちら選ぶかはプレイヤー次第だ。
戦場で迫られるギリギリの選択がここにあるわ。ある種、戦争の虚しさを実感できるわね。

最後の鍵を発見。
地雷原を抜けたら、建物を破壊して捕虜収容所への門鍵を見つけましょう。 ここまで来ればもう一歩ですわよ。

捕虜収容所から要人を救出。
捕虜収容所をTNTで爆破すると捕らわれていた要人が解放されます。 要人を無事に画面左端まで連れ帰ればミッションコンプリートです!(^^)

ミッションクリア!
本作には3つのゲームモードがあり、先ほどまで見てきたのはGAME-Aというモードだ。 GAME-Bは基本的にGAME-Aと同じだが、ひとつ大きな違いとして敵陣から誘導ミサイルが飛んでくるようになる。

恐怖の誘導ミサイル。
ミサイルは画面右端からダウ・ボーイ目掛けて飛んでくるので、避けるなら縦方向に逃げることを意識しましょう。 また、障害物を盾にしたりマシンガンの銃撃で撃ち落とすこともできますわ。
ミサイルの威力はTNTと同じだから、着弾地点が近ければ爆風に巻き込まれてしまうわ。 飛んでくるスピードも速いからミサイルから目を離してはダメよ。
だけどうまく誘導できればアイテムを使わなくても灯台やドラム缶なんかのオブジェクトを破壊してくれるから、役にも立つのよ。 ミサイルをどういなすかはプレイスタイルによって差が出るところね。
2-PLAYモードでは文字通り2人でプレイすることができます。 こちら基本的にはGAME-Bと同じなのですが、1プレイヤーがダウ・ボーイを、2プレイヤーがミサイルを操作するという一風変わったシステムとなっています。
このアイディアは面白いわよね。 例えば2人のダウ・ボーイがお互い協力し合うようなゲームにしても良かったと思うんだけど、 片方がミサイルを操れるようにしたことで遊びの幅が広がっているもの。
ミサイルを敵兵やオブジェクトに当てて協力をすることもできれば、 逆にダウ・ボーイを目掛けて発射するお邪魔プレイに徹することもできますのよね。
この敵側を操作できるというアイディアはプログラム的にも難しくなく、斬新さもあり、さらに独自の面白さも生んでいる一石三鳥のアイディアだと思う。 2プレイヤー側を操作したがるプレイヤーは多かったのではないかな。
BGMについても触れておきましょう。 本作のBGMには幾つかのアメリカ国家・民謡が使われているわ。
タイトル画面、MAP1、MAP3では『You're in the Army Now』、MAP2では『ジョニーが凱旋するとき』、MAP5クリア時には『星条旗』が流れます。 アメリカ映画の挿入歌としてもよく使用されているので日本人でも馴染みのある音楽だと思いますわ。
VIC-20およびコモドール64版ではゲーム中のBGMは存在せず、タイトル画面で『You're in the Army Now』が、MAP6クリア時に『星条旗』が流れるのみでしたから、 ファミコン版におけるBGM追加もローカライズの一環ですね。
バラード曲としても人気の高い『ジョニーが凱旋するとき』を追加曲に採用したのはいいチョイスだと思うわ。私も気に入っているのよね(^^)
アメリカのホビーパソコンの人気作をファミコンに移植した本作であるが、発売当時のプレイヤーからの評価は決して良くなかった。 いや、明確に悪かったと言い切っていいほどだ。
その事実を証明する物証のひとつに、『ファミリーコンピュータmagazine』の『ゲーム通信簿』があるわ。 ゲーム通信簿は読者のアンケートをもとに30点満点の評点を与えるシステムで、客観的な視点による指標として使われていたわ。
具体的には『キャラクタ』『音楽・効果音』『お買い得度』『操作性』『熱中度』『オリジナリティ』の6つの評価軸を各1〜5点で評価し、それぞれの平均値を算出する形です。 概ね18点以上の点数であれば良作として扱われていました。
一度メーカー自身による組織票で評点を押し上げていたことが発覚した事件もありましたけど、実際にゲームをプレイしたユーザーが評価した平均値なので基本的に信頼性は高いと言えますわね。
そのゲーム通信簿において『ダウ・ボーイ』の評価は12.88点であった。 この得点はなんと同誌のファミコンロムカセットで評価された中では最も低い点数なのだ。 そもそも評価されていないゲームもあるため断言はできないが、ほぼファミコンの中では最底レベルの評価を下されてしまったことになる。

『ファミリーコンピュータマガジン100号記念 ファミコンロムカセットオールカタログ』より引用。
だけどこの評価、ちょっと受け入れがたいのよねー…。 そんなに目に付くような悪い点は見当たらないと思うんだけど、どうしてこんな低評価になってしまったのかしら。
これは想像ですが、当時のゲームとしては操作性が少し複雑であることが影響したのかもしれません。 本作は当時のファミコンにしてはアイテムの種類が多く使い方も分かりにくいですから、 取扱説明書を読まずにプレイしたのならどうしたらいいのか困ってしまったでしょうね。
操作が直感的ではないという面はありますね。 オリジナルであるVIC-20版およびコモドール64版はユーザーが成熟していたため容易に受け入れられましたが、 ライトユーザーの多いファミコンで出すにはまだ少しだけ早かったのかもしれません。
あとはボリュームの少なさも影響したかもね。 全5ステージあるとは言え一周するのに掛かる時間は10分程度だから、物足りないと思われたかもしれないわ。 その点はアイテムやゲームモードの幅広さで補っているから底が浅いというわけではないのだけどね。
その辺りは難点と言えば難点だけど、戦闘工兵任務という珍しい題材を用いたプレイ感覚には新鮮味を感じられるし、ギミックが豊富でMAPごとの内容にメリハリがあるから良く出来てるっていう感想の方が先に立っちゃうわ。 まあ時代が求めるものに合わなかったって言うことなのかしらね。残念だけど。
本作は工兵任務と言うファミコンでは唯一無二のテーマを扱い、ステージにもバリエーションがあり、アイテムを使い分ける面白さがある。 2人プレイの方法も奇抜かつ独特で、つまりは個性の塊だ。
単に個性が強いというだけでなく、しっかり遊べるバランスに仕上がっているところが素晴らしいですね。 理不尽に感じる要素がないのは明確な強みです。
移植度の観点ではステージ数がオリジナルの6から5に減っていたり一部の演出が簡素になっている等の違いはありますが、概ね良好ですわ。 ローカライズ要素も不自然さはなく、満足度を高める方に作用していたと思います。
ケムコはローカライズがわりと上手いのよね。 当時のゲームは日本製と海外製の違いを見分けやすかったんだけど、ケムコが出したゲームは一見すると元が海外のゲームだとわからないくらい馴染んでいるものも少なくないわ。
ケムコとしては当時の評価は不本意だったでしょうけど、その後も海外作品のローカライズを続けてくれたおかげで世に出た名作もあるわ。 そういった意味でも本作は間違いなくケムコの原点ね。
初稿:2008年09月28日
改訂1:2019年12月28日
改訂2:2025年11月21日