ファミコンのローンチソフトとして現れた『ドンキーコング』をプレイしたとき、私たちは大きく2つの思いを味わったわ。 家庭でアーケードと同等なゲームをプレイできる驚きと喜び、それと移植にあたりステージがひとつ削られていたことへの嘆きよ…。
そう、ファミコン版では第2ステージにあたる『50m』が丸々削られていた。 確かな事情は伝わっていないが、当時の技術では再現が難しかったゆえの措置だったと言われている。
止むを得ない判断だったのでしょうが、この措置によって第2ステージはしばし幻の存在となっていきます。 と言うのは、国内ではその後のドンキーコングの移植は長らくこのファミコン版をもとにしたものが主流となっていくからです。
任天堂はファミコンが軌道に乗り出した1985年頃を境にアーケード事業から徐々に撤退していったのだけど、このことでドンキーコングに限らず 任天堂のアーケードゲームは顧みられる機会が減って移植されることもなくなっていくわ。
オリジナルの存在が忘れ去られることはなかったが、第2ステージの存在感は徐々に失われていったんだ…。
第2ステージに再び光が当たったのは1999年の事よ。 ニンテンドウ64のソフト『ドンキーコング64』内のミニゲームとしてアーケード版が登場したのには驚いたわね。
それも筐体まで再現する凝りようで、オリジナルからのファンへのサービスに感激したものです(^^)
N64版では筐体の形から再現するこだわりの深さ。
だがストーリー進行上2周クリアが必須なのにも関わらず残機が1しか与えられずひとつのミスも許されないことや、 2周目はゲームスピードが上がって難度が向上しているためオリジナル版とは遊び応えが異なっていたことは留意したい。
その後、後継機種のWiiでは過去の作品をダウンロード販売するバーチャルコンソールのサービスが始まりますが、 そこでファミコン版はリリースされたもののアーケード版に触れられることはありませんでした。
アーケードゲームの復刻をしていたレーベル『バーチャルコンソールアーケード』で任天堂のゲームが一つもリリースされなかったことは印象的で、今後のアーケード版の復刻を絶望視するファンも多くいたわ。
ところが!さらに時代が下った2010年、海を隔てた遥かなヨーロッパからもたらされた情報によってファンの間に激震が走るわ。
その内容はあまりにも唐突で意外なものだった。 なんと、ヨーロッパで販売されるスーパーマリオ25周年仕様のWiiに『Donkey Kong Original Edition』というゲームがプリインストールされると言うのだ。
この作品はファミコン版をベースとして移植度をさらに高めたもので、もともとアーケード版にあってファミコン版では省略された要素を一部復活させているのが特徴です。
大きいところではドンキーコングがレディを担いで登っていくデモシーンの追加、そして念願の第2ステージの収録がなされているわ。 つまりファミコンのスペックで作られた第2ステージをプレイすることができるのよ。
流れるベルトコンベアーに立ち向かえ。
コングはレディを抱えて上層へ逃げる。
この試みは粋よね。 ファミコン版の制作時も本当はこうしたかったんでしょうし、ファンもこれが遊びたかったはずだし、 当時の開発者とユーザー双方の心残りが晴らされたと思うわ。
ですが日本で販売されるスーパーマリオ25周年仕様のWiiには別のゲームソフトがプリインストールされることとなり、『Donkey Kong Original Edition』に関する情報は何も発信されませんでした。
日本版にプリインストールされたのは『スーパーマリオブラザーズ 25周年バージョン』。ハテナブロックのマークが『25』となっている。
どうしても『Donkey Kong Original Edition』を欲しがった熱心なファンの中にはヨーロッパの本体をわざわざ輸入して手に入れた人もいたと聞くわ。
私もそれを企てたことがあるけど、費用がとんでもなくかかるしヨーロッパの本体を日本で動かすのは大変そうだったから断念したわ。 そのかわり任天堂に単品販売を希望する要望書を送付したわよ!
そんなことまでしてたのか…。 その願いが通じたのかは知らないが。さらに2年後の2012年になっていよいよ日本でも入手の機会が訪れることとなる。
入手方法はこれまた特殊で、2012年7月28日から9月2日までの期間限定で実施された『クラブニンテンドー 夏のダウンロード版スタートキャンペーン』の特典としてニンテンドー3DS向けに配信される形となりました。
このキャンペーンではニンテンドーeショップにクラブニンテンドー会員IDを登録を登録したうえで、最初にダウンロード販売される2本のソフト『New スーパーマリオブラザーズ 2』もしくは『ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング』の いずれかをダウンロード版で購入する必要があったわ。
対象ソフトの2本。画像はパッケージ版。
言わばドンキーコングとは関係ないソフトを買わないと入手できないわけだから、対象ソフトに興味がない人の場合は少しハードルが高かったわね。 それにキャンペーンの期間が5週間と短かったからキャンペーンに気が付かないまま機会を逃した人もいたみたい。
このキャンペーンが日本では最初で最後の入手機会となり、2度目の機会を設けられることはなかった。 欲しい人の元に行き渡ったとは言い難いところだな。
補足だけど、ヨーロッパとオーストラリアでは2014年9月からニンテンドーeショップでニンテンドー3DS版のダウンロード販売が行われていたの。 だから当該地域の3DS本体を入手すればeショップにアクセスして購入することも一応可能ではあったわね。
ですがそのニンテンドーeショップも2023年3月をもって終了してしまったので、現在では新たに入手する手段はなくなってしまいました。
だがこれで第2ステージが再び幻になってしまったかと言うとそのようなことはなく、 2019年にはハムスターがNintendo Switch向けにアーケード版『ドンキーコング』を復刻するサプライズを見せてくれた。
ハムスターは過去のアーケードゲームを現役ハード向けに復刻するアーケードアーカイブスというプロジェクトを展開しています。 そのラインナップの中に任天堂のゲームが加わり、ドンキーコングをはじめとした数々の任天堂のアーケードゲームが復刻を遂げることとなりました。
ドンキーコングについてはオリジナルであるアーケード版の忠実移植が現行機種のSwitch向けになされたことで多くの人の目や指に触れることになって、幻とまで呼ばれた第2ステージは幻じゃなくなったわ。 ハムスター及び復刻に尽力した関係者には感謝したいわね。
だけどファミコン時代の心残りを晴らしてくれた『ドンキーコング オリジナル・エディション』の存在意義も決して忘れることはないわ。 願わくば今度はこっちの方が幻にならないでほしいわね。
初稿:2020年01月18日
改訂1:2025年09月06日